まさかの朝
アーサーの声が聞こえる。アーサーってなんだ?ここは日本なのに。薄っすらと目を開けると知らない景色が目に飛び込んでくる。昨日の夜・・・・・・・。覚えていない。確か新宿で飲んでいたような。思い出せ、思い出せ。
私は必死に12時間前のことを思いだそうと絞り出そうとしていると
「目覚めましたか?だいぶ酔っていたみたいですけど?」
と隣で男の声がする。この世で最も嫌いな生き物だ。「ヒーッ」と思わず悲鳴を上げてしまう。妙に整ったその顔は吐き気すら覚える。
「あなたは誰?私になんかした?待って、あなたAIね。なんでAIの部屋に私がいるの」私は彼がAIと気づきなんとなくホッとした。
「 お気づきでしたか。外傷もなく、よく寝られておりました。僕はアーサーと言います。下級のAIですがお見知り置きを」
「オーケーアーサー。助けてくれてありがとう。あなたに助けてもらって助かったわ。生身の男だったら、何をされていたことか。おおー怖っ」
アーサーの心地のいい声についしゃべりすぎた。そろそろ御暇しよう。
「連絡先ちょうだい。あとからお礼をしたいから。あなたも飲むんでしょ?」
手でグラスを持つポーズをする。
「もちろん飲みます。酔うことはできないんですが」
とはにかむアーサーもどこか可愛い。しかしアーサーとは言い得て妙だな。確かに目の前にいるアーサーは外国人のように彫りが深い。私は女子専門なので男に興味がない。無いというか恋愛対象ではないのだから、これまで男と交わることもなかった。一夜を共にしたのはアーサーが初めてだ。
「じゃあ私帰るね。それよりここ新宿?」
「火星です。地球にはちょっと遠いかもしれません」
「火星ね....。ってか火星ってどういうこと。どうやって火星に来たの。地球に戻してよ」
「申し遅れました。私は火星の王アーサー。あなたを花嫁として迎え入れます」
「それってプロポーズ?私を何だと思っているの。私は生身の女の子なのよ。おまけに男性に興味なんかないんだから」
「そう言われましても。私とあなたは昨日交わったのです。契りを結んだのです。これはもうただごとじゃありません」
アーサーが思いもよらないことを言ったので、私はおおいにパ二クッてしまった。
「ちょっと待って。あなたの話に1/10も追いつけていないわ。これって悪い夢でも見ているのかしら。オーケーアーサー。順を追って話していくわね。昨日の夜、私は新宿で飲んでいた。それも酔いつぶれるほどに。なんでそんなに飲んだのかは記憶にない。私はあなたとどこで出会った?全然思い出せない。なんでそんなにいつも酔いつぶれるまで飲んでしまうんだろう。そういつもなの。今まで無事だったことが奇跡みたいなものね。まあ今回でその奇跡は崩れ去ってしまったけど」
私は自分の心の甘さを後悔した。




