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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第五十八話 記憶断片052-誓い

2035年6月23日 ・深夜ーー


通路のセンサーが反応した。

ケイトはモニターを確認すると、部屋を出た。

施設の照明が静かに床を照らしていた。


遠くから、二人の姿が見えた。

ミハイルとアントン。

防塵スーツの肩には砂が残り、長距離移動の疲れが滲んでいたが、ミハイルの歩みは速かった。


ケイトの姿を見た瞬間、ミハイルは足を止め、安堵の色を浮かべた。


「……よかった。無事だったんだな」

「軍から、ケイトの護衛を頼まれた。

なにか起こってるんじゃないかって心配してた」


ケイトは、微笑みながら頷いた。


「大丈夫。心配してくれてありがとう。」


ミハイルは、少しだけ肩の力を抜いた。


ケイトは、少し間を置いてから訊ねた。


「……スティーブン博士に会った?」


ミハイルは少し考えたが首を振った。


「いや、そんな名前の人とは会ってないな。

ただ、軍の高官からは、ケイトを軌道エレベーター建設準備区域にある“極低温保管庫”の所まで護衛してほしいって言われた。

詳しい理由は聞かされてない」


ケイトは、静かに息を吐いた。

端末を手に取りながら、スティーブンとの通話記録を開いた。


「……スティーブン博士は、コンセンサスコアの設計者なの。

彼によれば、YUKIの深層領域がコアにも関与していて、そこに“追加構文”を記入することで、本体コアにも影響を与えられる可能性があるんだって」


ミハイルとアントンは、静かに耳を傾けていた。


「ただ、その構文を記入するには、佐藤博士の持つ鍵と、最低2つの量子暗号キーが別に必要。

スティーブン博士は、その暗号キーを私に渡すつもりでいる。

ただし、渡す際に静脈認証が必要だから、直接会わなきゃいけないの。

彼は、落ち合う場所をミハイル君達に託したと言ってた。」


ミハイルは、しばらく黙っていた。

そして、静かに頷いた。


「なるほど…..で、その落ち合う場所が、南フロリダの軌道エレベーター建設準備区域の極低温保管庫って訳か」


「おそらく、そうだと思う。

急がないといけないんだけど、でも、今日はもう遅いから、出発は明日の朝にしよう。

帰って来て早々で悪いんだけどね。」



翌朝ーー


ケイトは、トレイに乗せた簡素な朝食を手に、静かに廊下を歩いていた。

佐藤の部屋の前に立ち、扉越しに声をかける。


「佐藤博士。おはようございます。

実は昨日、スティーブン博士という方と話をしました。

彼は、コンセンサスコアの設計者だそうです」


扉の向こうから、しばらく沈黙が返ってきた。

やがて、少し掠れた声が応じる。


「……設計者と? 本当に……?」


ケイトは頷きながら、昨日スティーブンから聞いたこと全てを佐藤に説明した。


佐藤は、しばらく黙っていた。

その沈黙には、驚きと、何かを噛み締めるような気配があった。


「……分かりました。それならば私は今日からコアへの直接介入ではなくて、YUKIの深層領域に入って、コアとリンクしている箇所の特定と、追加構文の最適な記入方法の確立に集中してみます。

時間は……もう、あまり残されていないかもしれないから」


「はい。ありがとうございます。お願いします。」


ケイトは、静かにトレイを床に置いた。


「朝食、ここに置いておきますね。

無理はしないでくださいね」


返事はなかったが、彼女はそれ以上言わず、静かにその場を離れた。



作戦室ーー


ミハイルとアントンは、すでに作戦室で待機していた。

ケイトは、ミハイルとアントンの前に立ち、少しだけ言葉を探していた。


「……佐藤博士のことなんだけど」


その声は、いつもより少し低かった。

言い出すまでに、わずかな沈黙があった。


「実は、感染の……疑いが濃厚なの。

本人も、それを自覚している。

それで、今は自室に篭って……

悲壮な覚悟で、作業に臨んでる」


その言葉が落ちた瞬間、作戦室の空気が静かに揺れた。

ミハイル達は顔を強張らせた。


誰も口には出さなかったが――

ルカの死が、頭をよぎる。


ケイトは、声を落として言った。


「……彼は、自分の命を削ってでも、人類の為に突破口を探そうとしてる。

だから、私たちが南フロリダに行ってる間――

アントンにはここで佐藤博士を見守っていてほしいの」


アントンは、しばらく黙っていた。

そして、静かに頷いた。


「……わかった。

彼の状態を注意深く見守る。

何かあれば、すぐに連絡する」


ケイトは、少しだけ目を閉じながら小さく頷いた。


「.....それから、ミハイル君」


ケイトは、少しだけ言い淀みながらミハイルに向き直った。

言葉にするのが、どこかためらわれる内容だった。


「……スティーブン博士から言われたの。

南フロリダに向かったら、結社から攻撃を受ける可能性があるかもしれないって。

だから、護衛を受けるようにって……」


ミハイルは、ケイトの目をじっと見た。

その瞳に、わずかな緊張と不安が滲んでいた。


「……護ってくれる?」


ミハイルは、少しだけ口元を緩めた。

そして、短く、力強く答えた。


「ああ。任せとけ。

誰にも触らせやしない」


その言葉は、冗談めいたものではなかった。

彼の中では、それはただの任務ではなく、大きな誓いであった。

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