表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/66

第五十五話 記憶断片049-病の中で

2035年6月22日・夕方ーー


佐藤が部屋へと消えてから、作戦室は静けさに包まれていた。

ケイトがYUKIの端末に向かっていたその時――


「ワンッ!」


突然、YUKIが吠えた。

ケイトは驚いて振り返る。


「びっくりした!……YUKI?.....吠える機能とかあるんだ……」


YUKIは視線をキョロキョロと動かし、何かを探すような挙動を見せていた。


ケイトはそれを見て最初戸惑っていたが、しばらくして気がついた。


「……あ、多分佐藤さんを探してるんだ」


ケーブル類を丁寧に外し、ケイトはYUKIを連れて廊下を歩いた。

佐藤の部屋の前で立ち止まり、ドア越しに声をかける。


「佐藤さん、YUKIちゃんがどうやら寂しいみたいですよ。だから、部屋に入れてあげてやってください。

私は、今からご飯でも作りますね」


少し間が開いて、扉の向こう側からか細い声が返ってきた。


「……YUKIのワガママで、ご迷惑をかけます」


ケイトは微笑みながら、静かにその場を離れた。


――


ケイトは、佐藤から以前聞いていた「雑炊」という料理を、微かな記憶を頼りに施設にあった材料を使って作ってみた。


器を丁寧にトレイに乗せ、廊下を静かに歩いていく。

佐藤の部屋の前で立ち止まり、優しく声をかけた。


「佐藤さん……口に合うかわからないけど、以前言ってた雑炊ってやつをちょっと作ってみました。

良かったら、どうぞ」


出来上がった食事を、佐藤の部屋の前にそっと置く。


「今日は私も、早めに寝ますね。

ゆっくり休んでください」


その夜、ケイトも久々にゆっくり寝る事にした。

そして、静かに夜が明けた。


――


翌朝。

ケイトが目を覚ますと、佐藤もYUKIもまだ作戦室には現れていなかった。


少し不安を感じたケイトは、佐藤の部屋の前でノックする。


「佐藤さん……?大丈夫ですか?」


少しして、扉の向こうから声が返ってきた。


「……一応、大丈夫です。

YUKIは僕のそばから動かないですね。

時間がないのに、すいません」


ケイトはその声に安堵しながら答えた。


「声が聞こえてよかった。

大丈夫ですよ。

私、ちょっと別のアプローチを考えついたので、今はそっちを試してみますね」


彼女は静かに廊下を歩き、作戦室へ戻ると、端末を開いた。


ケイトは暗号化通信ラインに接続し、深く息を吸った。

端末の応答音が一度だけ鳴り、回線が開く。


「もしもし、こちらケイト・モリスです。

申し訳ないんだけど、急ぎでお願いがあるの。

えーと、NASAの職員で、コンセンサスコアに関与している人物を――誰でもいいから、探してもらえないかな?

おそらく機密事項で難しいかもだけど」


数秒の沈黙。

その後、回線の向こうから何かを確認するような声が聞こえた。

ケイトは少し戸惑いながら答えようとする。


「えっと……私?

わたしは、ケイト・モリス博士です。

マサチュ……マサ……マサチューセッツ工科大学、首席で……」


言いながら、声が少し震える。

端末の応答ランプはすでに消えていた。


「……あれ? もう……切れてる?」


ちゃんと伝わったか少し不安になったが、ひとまず連絡が来るのを待つ事にした。


返事が来るまでの空き時間、ケイトは情報を集める事にした。端末を開き、SNSの情報を漁り始めた。


画面をスクロールする指先が、時折止まる。


──うちの地区、警備ロボが全部止まってる。怖すぎる。大丈夫なのかな


──最近またネズミ見かけるようになった。ちょっと前は絶滅したんじゃないかって言われてたのに


──駅前で人が暴れてた。目が赤くて、叫びながらガラス割ってた。警備ロボいないから誰も止められなかった


──うちの近所で固まっているロボが突然『お前を見ているぞ』って言った。怖すぎて泣いた


ケイトは眉をひそめる。


──昨日の夜、郊外で1体だけ動いているロボットをみた。何かを運んでたっぽい。


──技術者の知り合いが言ってた。コアは不具合じゃなくて、本当は誰かが破壊したらしい


──隣町の隔離施設で暴動が起きてるらしい、ちょっと近くまで見に行ってくる


──NASAが月の裏側に予備コアを隠してるって話、本当?誰か知ってる


真偽は曖昧だが――それでも、世の中に漂う不安とざわめきは、確かに伝わってきた。

ケイトは引き続きSNSで情報を漁っていた。



一方その頃、佐藤の部屋ではーー



YUKIは静かに床に伏せ、佐藤のそばに寄り添っていた。


佐藤はベッドの縁に腰を下ろし、指先を見つめていた。

痺れはもう、感覚を奪い始めている。

視界も、時折揺れる。

自分が“自分”でいられる時間は、もう長くない――それを、彼は薄々と感じていた。


「……YUKI」


声はかすれていた。

それでも、YUKIはすぐに顔を上げた。


「君には、こんな姿を見せたくなかったな。」


YUKIはじっと見つめていた。


「僕は、たぶん……もうすぐ壊れる。

体も、心も。

それでも、やらなきゃいけない。

人類のために。」


佐藤は、ゆっくりとYUKIの頭に手を置いた。

その手は、わずかに震えていた。


「君のことは、ただのロボットだなんて思ったことは一度もない。

最初は確かにくまから人々を守る為だけに作られたのかもしれない。

でも今は……家族だ。

僕にとって、たった一人の、かけがえのない家族だよ」


YUKIは、静かに首を傾けた。

その仕草が、佐藤の胸を締めつけた。


「だから、言っておく。

もし僕がおかしくなって、暴れたりしたら……すまない。

その時は、君が止めてくれ」


佐藤は目を閉じた。

そして、最後の願いを口にした。


「最後に、僕のわがままも聞いてほしい。

もし僕がこの世から去った時は――

ケイト博士を助けてやってほしい。

彼女と君とで、人類を守ってほしい」


YUKIは、少しだけ首を傾けた。


佐藤は、ゆっくりと立ち上がった。

足元はふらついていたが、目は静かに前を向いていた。


「……よし。

ケイトさんにケーブルを持ってきてもらおう。

今日から僕は、この部屋で、僕が出来ることを――命尽きるまで、YUKIと最後までやり遂げる」


佐藤は、自ら部屋に隔離されることを選んだ。

誰に強制されたわけでもない。

それは、自分の症状を誰にも移さないための配慮であり、

そして――残された時間を、YUKIと共にコアへの介入に捧げるための決断だった。


「この部屋の中で、僕にできることをやる。

YUKIと一緒に、最後まで挑戦する」


その言葉は、静かにケイトに伝えられた。

それが、佐藤の覚悟のすべてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ