第五十二話 記憶断片046-彼方から
2035年6月15日夕方ーー
コアが破壊されたという話を聞いた後、ケイトは佐藤と操作を代わりログ群を確認していた。
「……アークジェネシスの停止原因を調べてみましょう。
制御信号の履歴、異常検知、緊急プロトコルの発動記録……」
YUKIが静かに応答する。
「関連ログを抽出中。
検索対象:制御断絶、緊急停止、復元プロトコル」
数秒後、画面に時系列ログが展開された。
佐藤が目を凝らしながらスクロールする。
「……ここです。停止の約3分前、制御用コアとの通信断絶を検知。
その直後、全機体が“緊急停止プロトコル”を実行しています」
ケイトが画面を覗き込む。
「制御用コアって……破壊されたって話のやつですか?」
佐藤は頷いた。
「おそらく。ログには“地表制御ノード #AQ-CN1”とある。
AQは南極の識別コードですね。
破損判定と同時に、全機体が緊急停止に移行してる」
ケイトがコード断片を指差す。
「“CommandChannel = NULL”……つまり、命令系統が切れた」
佐藤は静かに言った。
「彼らは、暴走を防ぐために“自律判断を停止”しています。
今は、外部からの再指令を待ってる状態です」
ケイトは頷きながら、別のログに目を移した。
「……あの、これ。
“復元プロトコル送信元:Node-GEO-17”って何ですか?」
佐藤が一瞬固まった。
「GEO……?それ、静止軌道の識別コードです。
地球外からの送信ノードってことになります」
佐藤が端末を操作し、送信元の詳細を開いた。
「……ここ。送信元識別:NASA-DSN/Relay-17。
NASAの深宇宙通信網……これ、軌道衛星からの信号」
佐藤は目を見開いた。
「つまり……コア本体は、地球上にはない。
衛星軌道上にある。」
ケイトは、静かに息を吐いた。
「……じゃあ、南極のコアが破壊されても、
コアの本体はまだ“生きてる”って事ですね」
YUKIが補足する。
「現在、Node-GEO-17より復元プロトコルが送信中。
進捗:3.2%。推定完了まで約58日」
佐藤は、端末を閉じながら呟いた。
「NASAの通信網を使って、
衛星から地上に“再構築の指令”を送ってる……
つまり、コアは“空から地上のコアを再起動しようとしてる”」
ケイトは、モニターに映る世界地図を見つめた。
「……止まったんじゃない。
命令を“待ってる”だけ。しかも再起動までは58日。
その頃には人類絶滅予測が100%になっていてもおかしくはない」
ミハイルはゆっくりと口を開いた。
「……58日後。
地上側の制御コアが復元したら、アークジェネシスもEVA-3も、また動き出すって事だな。
それまでに、何か手を打たないと、起動と同時に人々を殺し始めるかもしれない」
全員が沈黙するーー
ケイトは、復元プロトコルの進捗バーが静かに伸び続ける中、ふと疑問を口にした。
「……でも、どうやってコアは復元してるの?
地上のロボット達は全部止まってるはずなのに」
佐藤がすぐにログ検索を指示する。
「YUKI、復元関連の作業ログを抽出して。
もし稼働中のユニットがあれば、識別して」
YUKIのセンサーが点滅し、数秒後に応答した。
「検出:稼働中ユニット 7体。
識別:Node-GEO-17直轄指令下。
行動目的:資源搬送、構造再構築、通信中継の確保」
「……7体が本体コアから直接命令を受けて稼働してますね。
地上の制御系を再構築するために、選別された機体だけが動いてます」
ミハイルが眉をひそめる。
「なぜコアは全部のロボットを動かさない?
その方が早いだろ」
佐藤が少し考えて静かに答えた。
「.......おそらくですが
全てのロボットを一括で制御するには、一度に大量の相互データ通信が出来なければなりません。
現状、全ての制御を衛星軌道上から地表までの距離間で遅延なく行う事が難しいから、地上にもロボット制御用のコアがあるのだと思います。
なので、通信遅延を極力なくす為に必要最低限の数に絞って動かしているのではないかと思われます。
状況によっては遅延に目を瞑ってでも多くのロボットを動かしてくる可能性もありえますね。
最悪、地表のコアの再起動が不可能だと判断した場合、安定性を捨ててコア本体がロボット全体を制御しだすかもしれません。」
アントンが眉間に皺を寄せながら言う。
「ならば、どうすればいいんだ?」
ケイトは、静かに答えた。
「やっぱり――コアの制御権を人間側に取り戻すしかないと思う。
仮に今後、人類が絶滅する未来になったとしても、
人々には“尊厳のある死”を選ぶ権利がある。
それを、私達がコアに教えなきゃいけない」
佐藤が頷いた。
「私もそれに同意します。
まずはそこに全力で注力すべきです。
ただ、万が一の時のために――
各国政府には事情をすべて説明し、
国民達にシェルターへの避難を促してもらう動きなども必要かもしれません」
その言葉に、ミハイルがすぐに応じた。
「なら、俺たちはイーサンに直接会いに行こう。
彼に状況を正確に伝えて国の方にも報告してもらう」
アントンも頷いた。
「あと、軍の上層部にも掛け合ってくる。
いざと言う時の住民避難やロボット達の対処について。
その辺は、俺たちに任せてくれ」
ケイトは静かに頷いた。
「分かった。
私達は、コアの制御権を取り戻す方法に集中するね」




