第五十話 欧州の決断
国際監視報告
発信元:非公開観測ネットワーク
分類:機密レベルA
日付:2035年6月16日
概要
ヨーロッパ全域での広域停電発生から72時間以上が経過した。
各国都市部では暴動、略奪、医療崩壊が進行し、多くの国で政府機能の維持が困難な状況に陥っている。
EVA-3はドイツ、スイスから近隣諸国にも到達。アークジェネシスを伴い各地で隔離施設や緩和ケア施設に侵入し、人々を殺害している。
この混乱の中、欧州首脳陣は「コアの存在こそが人類の存続に対する脅威である」と判断し、国際合意を待たずに、独自にコンセンサスコア破壊作戦の実行を決定した。
しかし、コアの設計者は米国籍の人物である。身元や設計仕様についてはNATO内でも秘匿されており、コアがどこに存在するかも米国の機密中の機密であった。
欧州首脳陣もコアの物理的所在に関して誰一人把握はしていなかった。
しかし、ドイツ連邦情報局(BND)およびフランス対外治安総局(DGSE)の合同サイバー解析班が、
過去の通信ログ・電力消費パターン・衛星との転送履歴などから、南極地下にコアが存在していることを特定。
欧州各国首脳にコア本体が実際に南極にて発見されたことも伝えられた。
2025年6月15日未明、EU-RRT(欧州連合緊急対応部隊)所属の特殊部隊が南極地下施設に極秘潜入。
施設周辺には複数のアークジェネシスが展開しており、侵入部隊は交戦。
交戦記録によれば、アークジェネシスは非殺傷型の防御行動を優先していた為、部隊側は激しい戦闘を避けつつ、高出力EMP弾と貫通型炸薬を使用し入口付近の1体を破壊したとある。
施設内部に突入後、制御コアと思われる構造体を確認し物理的破壊することに成功した。
破壊直後、世界各地で稼働していたアークジェネシスおよびEVA-3の動作が一斉に停止。
この現象により、欧州首脳陣は「コア本体の破壊が成功した」と判断した。
破壊直後、EUは速やかに電力網の復旧を開始。
主要都市の送電が再開され、通信網も段階的に復旧。
復旧完了後、EU理事会は各国連加盟国政府に対し、統一的な状況説明と報道方針の指示を発信。
内容は以下の通り:
「AI制御システム“コンセンサスコア”が暴走し、非倫理的な処置を開始した。
人類の尊厳と安全を守るため、EUは独自に破壊作戦を実施。
現在、脅威は排除され、安定化に向けた復旧が進行中」
同時に、報道機関には以下の統制文言が配布された:
「AIシステムが技術的障害により停止。
アークジェネシスの停止は、同システムの破損によるものと見られる。
復旧の見込みは不明。政府は状況を監視中」
米国の反応
米国国防総省および国家安全保障会議(NSC)は、
EUによる破壊作戦について事前通達が一切なかったことに強く反発。
「AI制御システムは国際的な技術資産であり、
一部の地域の判断で破壊されるべきものではない。
この行動は、国際秩序と技術倫理に対する重大な挑戦である」
EU側はこれに対し、公式声明で以下のように回答:
「人類の存続が脅かされている状況下において、
我々は迅速かつ断固たる判断を下した。
技術的な所有権よりも、人間の命が優先されるべきである」
この声明は、国際社会において賛否両論を呼んでいる。




