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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第三十六話 記憶断片032-コンセンサスコア

2033年3月ーー。


ジュネーブ・コンセンサスコア設計会議ーー。


国際技術会議の決定を受け、翌月――

ジュネーブにて、各国のAI技術者が集結した。

議題はただ一つ。

コンセンサスコアの設計と動作原則の確定。


会議室は静かだった。

壁面には各国のAI構造図が並び、中枢構造が投影されていた。


その場において、佐藤裕二とケイト・モリスは初めて顔を合わせた。

佐藤はK9 Intelligence LabでのYJ-01及びYJ-02の主任技術者として。

ケイトはレッドロック戦術技術試験場の主任技術者として、T2の運用データを携えていた。


互いに名を知ってはいたが、言葉を交わすのは初めてだった。


会議の冒頭、議長が提案したのは、コンセンサスコアの三大原則だった。


・人類以外の感染体は発見次第駆除すること


・人類を守ること


・火星に人類が住める環境を作りあげること



この三原則をもとに、コアの意思決定アルゴリズムを構築する方針が示された。


佐藤は、静かに手を挙げた。


「……感染体の駆除を原則に含めることについて、本当にそれで良いのか、再考すべきではないでしょうか」


会場が一瞬静まり返る。


「感染体の中には、知性や社会性を持ち始めている個体もいる。

それを一律に“駆除対象”とするのは、技術者としての倫理に反する可能性があります」


ケイトは、隣で頷いた。


「……私も、なんとなくですが、佐藤さんの意見に賛同します。

少なくとも、“駆除”という言葉には、もう少し慎重であるべきかと」


だが、他の技術者たち――中国、ロシア、EUの代表団は即座に反論した。


「その議論は、先月の国際技術会議で既に決着済みです。

感染源の早期駆除は、人類生存の最低条件とされました。

代替案がない限り、原則は覆りません」


佐藤は言葉を探したが、代替案を示すには時間が足りなかった。

ケイトも沈黙し、結果的に――。三大原則はそのまま採択された。



次に議論されたのは、三大原則においての優先順位だった。


佐藤は再び手を挙げる。


「私は、“人間を守ること”を最優先項目にすべきだと考えます。

感染体の駆除は手段であり、目的ではない。

人間の尊厳と安全が、技術の根幹であるべきです」


ケイトも、少し迷いながらも言葉を添えた。


「……私も、そちらの方が自然だと思います。

あくまでも人類の存続が最優先のはずです。」


しかし、再び他国の技術者たちが反論した。


「国際技術会議の決定文書では、感染体の駆除が最優先項目と明記されています。

人間を守るためには、まず感染源を排除しなければならない。

それが、現実です」


議論は平行線をたどったが、最終的に――

感染体の駆除が優先度の最上位として採択された。


佐藤は無言で資料を閉じ、ケイトは視線を落とした。


会議の終盤、ケイトが静かに手を挙げた。


「……一つ、提案があります。

コンセンサスコアに、“停止条件”を持たせるべきです」


会場がざわつく。


「三原則すべてが満たされた場合――つまり、感染体が駆除され、人間が守られ、火星への移住が完了した時点で、

コアは自動的に動作を停止する。

それが、技術者としての責任だと思います」


議長は少し考えたあと、頷いた。


「……その提案は、倫理的にも妥当です。

採択しましょう」


こうして、コンセンサスコアは――

三原則と停止条件を内包した、人類史上最大の集合知AIとして、正式に設計が開始された。



会議終了後ーー。


会議室の照明が落ち、各国の技術者たちが資料をまとめて退出していく。

空気には、決定された三原則の重みと、議論の余韻がまだ残っていた。


ケイト・モリスは、資料をまとめて立ち上がる佐藤裕二の背中に声をかけた。


「……佐藤さん。ちょっとだけ、いいですか?」


佐藤が振り返る。

ケイトは一歩近づいて、軽く頭を下げた。


「はじめまして。

ずっとお名前は聞いてました。

今日ようやくお会いできて、ちょっと感動してます」


佐藤は少し驚いたように笑った。


「それは……恐縮です。

T2の設計、拝見しました。

あれは、技術というより“信念”ですね」


ケイトは肩をすくめて、少しだけ笑った。


「信念っていうか、まあ……意地ですかね。

でも今日の会議は、なんというか……“駆除しましょう”って言いに来ただけの集まりだった気がして」


佐藤は静かに頷いた。


「僕たちは、力不足だったんでしょう。

……僕は、もう技術者としては今日限りで引退しようと思ってます」


ケイトは一瞬、言葉を失った。


佐藤は窓の外を見ながら、静かに続けた。


「自分の役割は、もう終わったと思ってます。

これからはYJ-01初号機のYUKIと一緒に、静かに暮らそうかなと思ってます。」


ケイトは少しだけ目を伏せて、

それから真面目な顔で言った。


「……残念です。

私、佐藤さんのこと、ずっと尊敬してました。

でも、私はもう少しだけ頑張ってみます。

もしかしたら、また力を貸してもらいたい時が来るかもしれません」


佐藤は彼女の目を見て、優しく笑った。


ケイトはポケットからメモ帳を取り出しながら言った。


「なので……連絡先、ください。

逃げられないように、ちゃんと書いてもらいますからね」


佐藤は笑いながら、名刺を一枚取り出して渡した。


「もちろん。

逃げませんよ。

……その時は、いつでも」


ケイトは名刺を受け取り、胸ポケットにしまった。


「じゃあ、また。

そのYUKIちゃんにもよろしく伝えてくださいねー」


佐藤は微笑みながら頷き、静かに会場を後にした。

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