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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第三十四話 記憶断片031-大円団

戦いの後ーー。


林の奥から、T2がゆっくりと姿を現し通信棟の方へと戻ってきた。

雪を踏みしめるたびに、油圧の低い唸りが空気を震わせている。


広場には隊員たちが集まり始めていた。

いつの間にか、メディアのクルーなども到着しており、

カメラのフラッシュと歓声が交錯する。


「英雄が戻って来たぞ!」

「本当に仕留めたのか……!」


拍手が広がる。

だが、ミハイルは何も言わず、T2のコックピットから静かに降りると、

そのまま臨時司令室の方へ歩いていった。


扉を開けて中に入ると、そこでも拍手が起こった。

アントンが立ち上がり、ミハイルの方へ歩み寄る。


「……おつかれさん。よくやった」


ミハイルは無言のまま手を上げ、アントンとグータッチを交わす。


その暖かい空気を割るように、軍の高官が部屋に入ってきた。

防寒コートの襟を立て、周囲を見渡しながらミハイルの前に立つ。


「……恐れ入った。

若いからと疑ってすまなかったな。」


一拍置いて、口元にわずかな笑みを浮かべる。


「ただ――子グマに情をかけて殺せなかったのは、まだまだ軍人としては半人前だな。

一流の軍人は、時には非情になれないと駄目な時もある。

……でも、まぁ今回は本当によくやったよ」


その言葉は、褒め言葉のようでいて、

どこか上から目線の針が混じっていた。


ミハイルは拳を握りしめ、

無言のまま高官を真っ直ぐに睨みつける。


アントンがミハイルの肩を優しく叩いた

そっと近づき、ミハイルの耳元で囁いた。


「……気にするな。おまえはよくやった」


ミハイルは拳をほどき、

ゆっくりと高官から顔を背けた。


そこに騒がしくケイトが部屋に入ってきた


「はぁ〜、もう、服が魚臭い。早くシャワー浴びたいよー……」


防寒ジャケットの裾を引っ張って、

鼻をくんくんしながら眉をしかめる。


その言葉に、場の空気が少しだけ緩んだ瞬間――

政府関係者の一人がケイトの方へ寄ってきた。


「博士、申し訳ないですがその前に、緊急記者会見をお願いしたいんです。

メディアの皆さん、もう集まってます。

国民も、あなたの言葉を待っています」


ケイトは一瞬固まり、顔をしかめた。


「……えー?今から?

てか、メディア集まるの早すぎじゃない。

情報がダダ漏れしてない?」


頬をふくらませながら、ジャケットの裾をぐいっと引き直す。


「う〜……はぁ、本当しょうがないなぁ。」


彼女が出口に向かいながら、

振り返ってミハイルに声をかける。


「はいはい、ミハイル君行くよ。

君が主役なんだから」


ミハイルは一瞬だけ彼女の方を見て、

顔を背けながら言った。


「いや、いい。ケイト私に任せてと前に言ってたから今回も任すよ」


そう言うと、そそくさと部屋の奥へと歩いていき、

扉の向こうに姿を消した。


ケイトはしばらくその背中を見送ったあと、

小さくため息をついて呟いた。


「……逃げやがったな」


そして、ジャケットの襟を立て直しながら、

記者会見場へと向かっていった。



記者会見場ーー。


照明が眩しく、カメラの赤いランプがいくつも点灯している。

ケイトは少しだけ髪を整えながらマイクの前に立った。


「えーっと……皆さん、寒い中お集まりいただきありがとうございます。

今回の作戦は、無事に終了しました。はい」


記者の一人が手を挙げる。


「今回の英雄、ミハイル・コルネンコさんは?」


ケイトは肩をすくめて、少し困ったように笑う。


「えー……ちょっと疲れちゃったみたいで。

今は休んでます。まぁ、頑張ってたんで」


別の記者が続けて質問する。


「作戦の具体的な内容について、教えていただけますか?」


ケイトは一瞬だけ考え込むような顔をして、

マイクに向かって言った。


「えーっとですね……まず、サーモンです。

大量のサーモンを用意してですね、こう、広場にバーッて撒いて……

それで、グリズリーがこう、ドシドシって来て……」


手振りを交えながら、擬音が飛び出す。


「で、T2がズバーンって動いて、

狙撃班がバシュッて撃って、

グリズリーがドシーンって倒れて……

あ、でも一頭はガシャーンって柵壊して逃げちゃって……」


記者たちはメモを取りながら、顔を見合わせる。

「……え?」という空気が一瞬漂うが、

すぐに誰かが「なるほど……」と頷き、

別の記者が「サーモン、重要なんですね」と感心したように声を上げる。


「ええ、サーモンがなかったら、たぶん来なかったと思います。

脂肪分がね、冬眠前にはすごく大事なんです。

……あと、T2がピタッて止めて、

ミハイルがズキューンって撃って、

……えーっと、そんな感じです」


記者たちは「ズキューン……」と小声で復唱しながら、

それぞれ納得したように頷いていた。

内心では「何言ってるんだこの人」と思いながらも、

場の空気に合わせて拍手が起こる。


ケイトはマイクから少し離れ、

「……あー、やっぱシャワー浴びたい」とぼそっと呟いた。


その声がマイクに拾われ、

記者たちの間に小さな笑いが広がる。


和やかな雰囲気の中、質疑応答はその後も続いていったーー。


---


2030年12月25日ーー。


レッドロック戦術技術試験場ーー。


外は雪。

レッドロックの空気は澄んでいて、静かだった。

整備棟の一角、T2の格納スペースにミハイルはいた。

工具を片付けながら、無言で機体の脚部を見上げていた。


そこへ、ケイトが両腕で大きな箱を抱えてやってくる。


「ミハイル君宛に、手紙とプレゼントがいっぱい届いてるよー」

彼女は少し息を切らしながら、箱をテーブルにドンと置いた。


中には、手紙、菓子、手編みのマフラー、手作りのカード――

どれも、感謝と応援の気持ちが込められたものだった。


その中でも、ひときわ目立つのは――女性からのファンレターの束。


ケイトが封筒を一枚手に取って、にやりと笑う。


「アラスカの反響すごかったもんね。

ミハイル君、一躍有名人になって――

世間では“ミハイル様”って若い女の子たちが呼んでるって、

この前テレビの特集でやってたよ」


ミハイルは眉をひそめながら、ちらりと箱を見た。


ケイトは少し間を置いて、

冗談とも本気ともつかない口調で言った。


「でもでも、私のミハイル君は誰にも渡さないけどねー」


ミハイルは工具を置きながら、静かに返す。


「いつから、俺はケイトのものになったんだ」


ケイトは返事せず何事もなかったかのように箱の中身を整理し始める。


「……はいはい。

まあ、食べ物のプレゼントが届くのは嬉しいね。

ミハイル君、今度メディアに出る時は――

“チョコレートが好物です”って伝えてね」


ミハイルは少しだけ笑って、

工具を棚に戻しながら言った。


「それ、ケイトが食べたいだけだろ」


ケイトは肩をすくめて、

「バレたか」と呟いた。


外では、雪が静かに降り続いていた。


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