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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第三十三話 記憶断片030-孤児

2030年11月10日ーー。


夜明け前のフォックス。

空は鉛色に沈み、気温は−20℃を下回っていた。

針葉樹林の向こうから、風が雪を巻き上げてくる。

通信棟前の広場には、アントンから頼まれてケイトが前日から用意してきた冷凍サーモンの山が並べられていた。


「本来ならグリズリー達はもう冬眠していてもおかしくない。いくら感染体だと言ってもそこは変わらないはず。冬眠前のグリズリーにとって脂肪分が高い魚は、最高の誘導素材。

……臭いに釣られて必ずやってくる。」


アントンは並べられるサーモンを確認しながら、静かに言った。


「よし準備完了。あとは、待つだけ」


T2は広場中央に立っていた。

ミハイルはコックピット内で無言のまま、照準モジュールを確認していた。

反応誤差は約0.01秒。

ほぼ“思った瞬間に撃てる”状態。


通信棟屋上には第1狙撃班が配置され、

奥のビル屋上にも第2狙撃班が待機していた。

地形は奥に行くほど狭くなる袋小路状に高圧電気柵が設置されている。


そして――1時間程経った頃、ついにその時がきた。


針葉樹の影から、ゆっくりと5体の凶獣化グリズリー。

その姿は見るものに畏怖の念と底知れぬ恐怖を植え付ける


体長はそれぞれおよそ4m程はありそうだ。肩幅も2メートルを超え、体重はおそらく800kg程度。灰色の毛並みは風になびくように揺れ、瞳は赤黒く爛れていた。


アラスカの森の王者。

氷と血の支配者。

その歩みは、地面を踏むのではなく、穴を開けているようにさえ思えた。


アントンの声が通信に入る。


「ターゲット接近。

一頭が先行してる。……囮かもしれん。

ミハイル、動け。T2を広場中央に誘導」


「了解」

ミハイルの声は短く、冷静だった。


T2がわずかに前進。

サーモンの山を踏み越え、放熱機能を使って熱源である事を強調する。


先行個体が広場に踏み込んだ瞬間――

左右の遮蔽から、残りの4体が出現。


T2を包囲。

獣たちは明らかに連携していた。

一頭が前進し、残りは回り込む。


アントンが即座に指示を出す。


「通信棟屋上第1狙撃班、狙撃開始。

右の個体を狙え。出来る限り急所を狙え」


第1狙撃班が発射。

弾が空を裂き、右の個体の肩付近を撃ち抜く――

だが、筋肉の異常肥大で急所を外れた。


獣は咆哮を上げ、T2に向かって突進。


「ミハイル、突進を交わせ、そして反転して左の個体を仕留めろ。

その後は柵側へ突破」


「了解」


T2が負傷したグリズリーの突進をスッと交わし、即座に旋回。

それと同時に大口径電磁ライフルを構える。

発射。

胸元の急所へ命中。唸りながら左の個体が崩れ落ちる。


隙を見逃さなかったミハイルはさらに一発

突進を交わしたグリズリーにもトドメを刺す。


T2はデッドパックの包囲を抜け、電気柵の袋小路の方向へと進む。

残る3体が追ってくる。


アントンが再び指示。


「ビル屋上、第2狙撃班

中央の個体の頭部を狙って狙撃。

ミハイルは、振り返って右の個体を第2班と同時に射撃」


「了解」


「3、2、1、撃て」

ビル屋上とK2が同時に狙撃。

中央の個体の頭部が撃ち抜かれ、崩れる。

ミハイルも右の個体の急所を的確に射撃。

撃たれたグリズリーは咆哮を上げながら倒れる。

そして残る一頭が一瞬怯んだ隙に、

K2はその横をすり抜け、残りの一頭を電気柵側の方へと追い詰めた。


残るは――最後の一頭。


一瞬の沈黙ーー。T2とグリズリーが睨みあう。

突如、グリズリーが凄い勢いで動きだす。

T2に向かってくるかと思いきや、

電気柵の手前にあった廃棄された発電ユニットの方に突進。


「……柵の支柱にぶつける気だ」

ケイトが叫ぶ。


獣は頭でユニットを凄い勢いで押し始める。

筋肉が軋み、金属が悲鳴を上げる。


激しくぶつかった衝撃により電気柵があっという間に破壊され、

最後の一頭は破れた柵の間を通り抜けて森の方角へ一直線に逃げだした。


ミハイルが即座にT2の熱源感知を展開。


アントンが指示をだす。

「ミハイル、追え。

熱源は途切れてない。俺が補正する」


「了解」


T2が森の中へと踏み込む。

雪を蹴り、枝を裂き、見失わないように走る。


そして――熱源が最後にたどり着いたのは巣穴と思われる場所だった。


そこには、人間の骨と思われるものがそこらに散乱していた。

そしてその横で、子グマが2頭、眠っていた。


ミハイルは照準を外し、動きを止める。


T2の視覚データを確認したアントンから通信が入る。


「……可哀想だが、親子ともやるしかない。

一度人間の味を覚えたクマは、匂いでまた人を襲う」


それに対してミハイルは返事をしなかった。


一瞬の躊躇。その瞬間、母グリズリーが突如飛びかかる。


T2は激しい体当たりを受け倒される。

だが、ミハイルは瞬時に受け身を取り、

体を反転させ、覆いかぶさってきたグリズリーの喉元へ銃口を押し当てて発射。


弾が脳幹を貫き、母グリズリーは即死。


静寂。

子グマが目を覚まし、動き出す。


アントンが言う。


「……可哀想だがやるしかない。子グマも感染しているはずだ。保護施設に生きたまま送るのも危険だ。」


ミハイルは珍しく声を震わせながら言った。


「駄目だ、俺には殺せない。

何とか保護して、施設に入れて欲しい。

……施設で、もし人を襲うそぶりを見せた時は――

その時は俺が責任を持って、こいつらを殺しにくる。」


アントンはしばらく黙っていたが、何かを悟り了承の返事をした。


「……わかった。ケイトに頼んでみる。

政府経由で保護申請を通してもらう。」


通信が切れ、T2は子グマの前で動きを止めた。


夜の森は、静かになった

南東の空が少し白み始め、長い夜が明けようとしていた。


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