第二十六話 記憶断片023-始動
2030年4月25日ーー。
レッドロック戦術技術試験場・格納エリアーー。
ミハイルは医療室を出て、T2の格納エリアに立っていた。
頭の傷はまだ完全ではないが、動作に支障はない。
今日から、いよいよ本格的な訓練が始まる。
そこへ、数日ぶりにどこかに行ってたケイトが戻ってきた。
白衣の下に防砂コートを羽織り、両手には大型のケースを抱えている。
「お待たせー! 留守中にちょっと仕込んできたよ!」
アントンが眉をひそめた。
「……何を持ってきた?」
ケイトは格納エリアの中央にケースを置き、勢いよく開けた。
「ジャジャーン! T2用の新装備、完成!」
まず彼女が取り出したのは、艶のある黒いシールド。
表面には微細な六角構造が走り、光を受けて鈍く反射している。
「これ、ロッキード・マーチン社のOnix素材製!
軽量なのに、従来の複合装甲の3倍の耐衝撃性。
構えてない時は、T2の背中に折りたたんで収納できる特注仕様。
邪魔にならないし、展開も一瞬。……かっこいいでしょ?」
ミハイルはシールドを手に取り、重量を確かめる。
見た目よりもずっと軽い。だが、剛性は確かにある。
アントンは背面の収納機構を見ながら、低く唸った。
「……背中に収まるってのは、ありがたいな。
動きの邪魔にならないなら、使える」
ケイトは満足げに頷き、次のケースを開けた。
「そして――こっちが火力担当!」
中から現れたのは、大口径の電磁加速式ライフル。
銃身は短めだが、内部には冷却コイルと反動吸収ユニットが組み込まれている。
マガジンは後部にスライド式で装填され、
銃口にはセンサー連動型の偏差補正モジュールが付いていた。
「T2の腕部出力に合わせて設計したから、反動はほぼゼロ!
弾は高密度タングステンコアで、感染獣の外殻も貫通できる。
しかも、AIが照準補正してくれるから、命中率も高い!」
ミハイルは銃を手に取り、構えてみる。
腕部のサポートが自動で調整され、銃身が静かに安定する。
「……これは、確かに使えそう」
ケイトは満面の笑みを浮かべた。
「でしょ? 完成させるまで大変だったんだから、ちゃんと褒めてよね」
アントンは肩をすくめた。
「……まぁ、見た目だけじゃなくて性能も良さそうだ。」
ケイトは笑いながら、T2の背部にシールドを装着し、銃をマウントに固定した。
「これで準備は完了。今日から、いよいよ本格始動だよ。
――ここからが本番」
T2の装備調整を終えたケイトは、端末を閉じて振り返った。
「じゃあ――手始めに野外練習場で動作テストしようか。
あそこ、ウサギがいっぱいいるから、ウサギを倒す練習から始めよう」
ミハイルは眉をひそめ、顔をしかめた。
「……感染してるかどうかも分からない、小さなウサギなんて殺せない。
ケイトって思ったより酷い人間だな」
ケイトは一瞬固まり、目をぱちぱちさせた。
そして、口をとがらせて顔をふくらませた。
「……ちょっと待って、それ本気で言う?
冗談だし! ほんのちょっと、冗談で言ってみただけだし!
……まぁ、半分くらいは本気だったけど」
アントンが横で咳払いした。
「……半分かよ」
ケイトはふくれたまま、手を腰に当てて言い返す。
「あと、この際だから言っとくけど――“ケイト”じゃなくて“ケイト博士”ね。
技術主任だし、博士号も持ってるし。
呼び方、大事だから。ちゃんと敬意を持って」
ミハイルはとくに返事もなくT2に乗り込んだ
ケイトはふくれたまま、端末を操作してT2を起動した。
「でもさ――いきなり凶獣と対峙するのは、さすがに無謀じゃない?
まだAIの学習も初期段階だし、遅延もあるし」
ミハイルはT2の腕部を見つめながら、静かに言った。
「いや、このくらいの遅延なら、大丈夫だと思う。
動きは追従してる。
あとは、俺がどう動くかだけだ」
「自信満々だね。
彼女は端末を再起動し、地図を表示した。
レッドロック試験場から北西に数キロ、グレイフォール渓谷と呼ばれる地域で、明らかに凶獣化してると思われる“大角鹿”数頭がたまに出没して観光客を襲っているという情報が入ってる。
サイズも動きも、通常の鹿とは別物らしい
……どう?駆除、やってみる?」
ミハイルは地図を見つめながら、表情を変えずに頷いた。




