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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第二十二話 記憶断片019-電脳

レッドロック戦術技術試験場・食堂ーー。



食堂は無機質な金属壁に囲まれていたが、テーブルの上には意外なほど丁寧に盛り付けられた料理が並んでいた。

焼き上げられたドライエイジドビーフの香りが、空気を柔らかく染めていた。


アントンは皿の上の肉を見て、目を細めた。


「……ドライエイジドビーフ?

戦術施設って聞いてたけど、豪勢だな」


ケイトは笑いながらグラスを並べていた。


「“美味しいもの食べないと良いアイデアは出ない”がうちのモットー。

脳も筋肉も、まずは栄養からってことで!」


彼女はアントンの前に赤ワインのグラスを置き、次にミハイルの前に缶を置いた。


「青年の君には……はい、レッドブル。やっぱりコレでしょ。翼、授ける系!」


ミハイルは缶を見つめたまま無言だったが、アントンは吹き出しそうになっていた。


ミハイルはフォークを手にしていたが、動きは鈍い。

皿の上の肉を見つめたまま、手が止まっていた。


ケイトは彼の様子に気づき、少し身を乗り出した。


「ほらほら、食べてよね

うちの調理班、元ホテルのシェフだからね。

この肉、下手な高級店より美味しいよ?……ふふふ」


ミハイルは少しだけ目を上げたが、無言のままフォークを動かした。


アントンは肉を噛みながら言った。


「話は重かったが、飯は軽い。

それだけでもありがたいな」


ケイトはにっこりと笑った。



食事が一段落してテーブルの空気が落ち着いた頃、

ケイトはグラスを指で軽く回しながら、口を開いた。


「んで、まぁ……本題なんだけど」


ミハイルとアントンが視線を向ける。

ケイトは少しだけ姿勢を正した。


「TALOSの初号機は完成してる。

何回かフィールドテストもやった。

救助活動とか、物資の運搬とか――そういう用途では、ちゃんと動いてる。

でもね……実戦では、まだ凶獣と戦えるレベルじゃないの」


アントンが眉をひそめた。

ミハイルは黙って聞いていた。


「一番の問題は、反応速度。

TALOSは“人間が中に入って操作する”っていう設計なんだけど、

そのプロセスがどうしても遅延を生むの」


ケイトは端末を操作しながら、説明を続けた。


「中の人が状況を見て判断して、動こうとする。

その時の筋肉の動きをセンサーが感知して、

その信号をスーツ側のAIに送る。

AIがそれを解析して、アクチュエーターに指令を出して、ようやく動く――

この一連の流れに、どうしてもタイムラグが発生するの」


ミハイルの目が鋭くなった。


「量子コアAIの最適化も試した。

稼働域のスピード調整もした。

でもね、限界がある。

凶獣の動きは速くて、予測不能。

こっちが動く前に避けられるし、逃げられる」


アントンは静かに息を吐いた。


「……つまり、現状は行き詰まってるってことか」


ケイトは頷いた。


「うん。

上の人を批判したいわけじゃないけど――

“人間が中に入って操作する”っていう前提が、遅延の主な原因になってる。

そこが、今の最大のネック」


ケイトはグラスを置き、再度姿勢を正した。


「それでね、私はまずこう考えたの。

せっかく量子コアのAIがあるんだから、これをもっと活かせないかって」


アントンが静かに頷いた。

ミハイルは黙って聞いていた。


「最初に考えたのは、人間の脳をリアルタイムでスキャンして、その信号を直接AIに送るって方法。

つまり、判断を人間がして、その意図をAIが即座に読み取って動かすっていう仕組み」


彼女は少しだけ首を振った。


「でも、それをやるには分子レベルでの脳のリアルタイムスキャンが必要なの。

ニューロンの発火だけじゃなくて、電位変化や化学伝達まで全部。

……現時点では、そんな技術は存在してない。

だからこれは、駄目だった」


ミハイルの目がわずかに動いた。


「次に考えたのが、擬似的な脳を量子コアAIの中に作るって方法。

中の人の脳に信号線を刺して、その信号をAIと繋ぐ。

で、AI内の擬似脳が判断して、アクチュエーターに司令を送る。

人間の“意図”だけを拾って、動作はAIが担当するっていう構造」


アントンが少し身を乗り出した。


「それは……理論的には可能なのか?」


ケイトは頷いた。


「理論的には可能。

でも、現実はまだそこまで脳科学が発達してない。

それに、脳から“すべての信号”を取り出すには、脳を丸ごと取り出すくらいの精度が必要になる。

……つまり、これも駄目」


「で、いろいろ考えてみて、最終的に私がたどり着いたのが――**“判断同期型制御”**って考え方なの」


彼女はラボのホワイトボードに図を描きながら続けた。


「まず、視覚入力の取得。

人間が何かを見たとき、網膜から後頭葉の視覚野――V1からV5あたりで映像が処理される。

この処理された信号を、脳波や神経インターフェースで読み取る。

もしくは、人間の目と同じカメラをTALOS側にも搭載して、同じ映像をAIに処理させる。

つまり、“何を見ているか”を人間とスーツが共有するってこと」


ミハイルは静かに頷いた。


「次に、判断の同期。

人間の脳は、視覚情報を受け取ったあと、前頭前野や頭頂連合野で“どう動くか”を判断する。

その判断が運動野に送られて、身体が動く。

この“判断”の部分――つまり、動こうとする意図を、スーツ側が先読みできれば、人間と同時に動ける」


アントンが少し身を乗り出した。


「それを読み取るには?」


ケイトは指で脳の図を示した。


「運動前野(premotor cortex)とか、補足運動野(SMA)。

ここは、“これから動かすぞ”っていう信号が出る場所。

つまり、まだ筋肉が動く前の“意図”が現れる。

この活動を拾えば、AIが人間の判断を先回りして動ける可能性がある」


ミハイルの目が鋭くなった。


「そして最後に、動作信号の出力。

運動野(M1)から下位運動ニューロンに送られる信号を、同時にTALOS側にも渡す。

これをそのまま外部アクチュエーター用の電気信号に変換すれば、

人間の動きとスーツの動作を完全に同期させることができる」


ケイトはホワイトボードを見つめながら、少しだけ息を吐いた。


「……理屈としては、これが一番現実的。

要するに、人間が何かを見て、“動こう”って思った瞬間の脳の信号を、

スーツ側のAIが先読みして動かすっていう仕組み。

視覚情報は人間とスーツで共有して、

“これから動くぞ”っていう意図の信号を、AIが拾って先に動く。

そうすれば、遅延を限界まで減らせる」


アントンが腕を組みながら頷いた。


「それをどうやって拾う?」


ケイトは少しだけ表情を引き締めた。


「皮質内マイクロ電極を使う。

運動前野と一次運動野に電極を埋め込んで、

“意図”と“最終出力”の両方の信号をリアルタイムで取得する。

それをAIに送って、AIが判断してスーツを動かす」


ミハイルの目が鋭くなった。


「……つまり、頭の中に電極を埋め込むってことか」


ケイトは少しだけ目を伏せた。


「うん。そこが一番の問題。

開頭手術が必要だし、長期的には信号の劣化や感染リスクもある。

でも、現状で“人間の意図を先読みして動かす”には、これしかないの」


彼女は静かに息を吐いた。


「もちろん、安全層は入れてる。

スーツ側には力や位置のセンサーがあって、

人間の動きと食い違ったら自動で止まるようにしてる。

AIも、使えば使うほど学習して、動きが馴染んでくるようになってる」


ケイトは二人を見つめながら、静かに言った。


「.....今まで協力者が得られなかった理由が分かるでしょ。

流石に頼む方も頼みづらいし。まして青年の君なんかに頼める事じゃない。」

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