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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第二十一話 記憶断片018-TALOS

2030年4月18日ーー。ネバダ州レッドロック峡谷


乾いた風が車体を叩いていた。

赤茶けた岩と砂ばかりの道を、アントンの運転する車が進んでいく。


「……本当にこんなとこに施設があるのかね」

アントンがぼそっと言った。

「騙されたってことは……ないよな。」


ミハイルは助手席で黙って外を見ていた。

眉間にわずかな皺。


「まあ、何もなかったら引き返すだけだ。

……それにしても、目印ひとつないな。軍の施設ってのは、ほんと隠すのが好きだ」


車が岩の裂け目を抜けた瞬間、前方の地面がわずかに振動した。

砂の中から、ゆっくりとスロープ状のゲートが姿を現す。


「……おお」

アントンが目を丸めた。

「やっと出てきたか。隠しすぎだろ、これ」


スピーカーから、明るい女性の声が響いた。

「ようこそ、レッドロックへ。車はそのまま進んでくださいねー」


アントンは苦笑した。


「……なんか、軽いな。」


車は、地下へとゆっくり進んでいった。



レッドロック戦術技術試験場・地下ラボ入口ーー。



車がスロープを下りきると、無機質な金属扉が開いた。

その奥から、白衣の女性が勢いよく飛び出してきた。


「やっと来た!あー、でもちょっと待って……」

彼女はミハイルを見て、目を丸くした。


「えっ、子供?……って、え、ほんとに? え、君が協力者?」


ミハイルは眉をひそめた。

「俺は子供じゃない」


その声は低く、怒気を含んでいた。


「おっと、ごめんごめん!そういう意味じゃなくて!

いや、でも若いね!18?ほんとに?すごいね!……でも、ちょっとびっくりしただけ!」


アントンが横から口を挟んだ。

「彼はミハイル。現場で育ったような男だ。年齢で判断しない方がいい」


彼女は手を合わせてぺこりと頭を下げた。

「はいはい、了解です!お姉さん、反省します!」


そして、急にポケットから端末を取り出した。


「じゃあ、とりあえず来てそうそう悪いんだけどこれにサインしてもらえる?

協力者用の同意書。

内容は“危険を理解してます”とか“秘密を守ります”とか“爆発しても文句言いません”とかそんな感じ!」


ミハイルは端末を受け取りながら、少しだけ目を細めた。

アントンは苦笑した。

「……ずいぶん軽いな」


ミハイルとアントンが同意書にサインを終えると、彼女は満足げに端末をポケットにしまった。


「よし、これで正式に“爆発しても文句言わない人”の仲間入りだね!」


ミハイルは少し眉をひそめたが、何も言わなかった。

アントンは苦笑しながら肩をすくめた。


「じゃあ、まず説明するね。ここで何をやってるかっていうと――」


彼女は言いかけて、ふと手を止めた。


「あ、そうだ!その前に自己紹介してなかった!」


彼女はラボコートの裾を整え、少しだけ背筋を伸ばした。


「改めまして、私はケイト・モリス。

この施設の主任技術者で、TALOSプロジェクトの設計責任者です。

えーと、出身はコロラド州ボルダーで……

大学は、マサチュー……マサチュ……マサチューセッ……」


一瞬、言葉が詰まる。


「……マサチューセッツ工科大学!を、首席で卒業しました!

……言いづらいよね、あれ。毎回噛むの。ほんとに」


ミハイルが少し眉をひそめた。

「……本当に首席?」


アントンが横で肩をすくめた。

「まあ、言えないからって嘘とは限らない」


ケイトは笑いながら両手を広げた。


「信じるかどうかは自由だけど、

この施設の設計図、半分は私が書いたからね。


「……ってことで、自己紹介はこんな感じかな」

ケイトは満足げに手をパンと叩いた。


「とまぁ、自己紹介終わったことだし――改めて、この施設のこと紹介するね!」


彼女はくるりと背を向け、廊下の奥を指差した。


「ここはレッドロック戦術技術試験場。

表向きは“気象観測施設”ってことになってるけど、実際はTALOSの開発と試験をしてる場所。

地下にラボがあって、屋外には実戦フィールドもあるよ。

まぁ、岩だらけで転ぶと痛いけどね」


アントンが後ろで腕を組みながら言った。

「TALOSって、あそこのゴツいやつの名前か」


「そうそう!」

ケイトは振り返って、にっこり笑った。


「Tactical Adaptive Loadout Operating System――略してTALOS。

対凶獣戦に特化したパワードスーツで、

人間の反応速度と防御力を限界まで引き上げる設計になってるの」


ミハイルは黙って聞いていた。

その目は、どこか焦りを含んでいた。


ケイトは彼の表情をちらりと見て、少しだけ声を柔らかくした。


「……ここでやってるのは、ただの装備開発じゃない。

“人間が、凶獣に抗うための手段”を作ってるの。

だから、君たちが来てくれたのは、すごく意味があることなんだよ」


ケイトはそう言って、少しだけ真顔になった。


「でね、まずはウイルスの話からしようか。

私たちが相手にしてるのは、**“凶獣化ウイルス”**って呼ばれてる病原体。

最初の報告は――日本からだった。

確か、秋田の山間部で異常行動を示すクマが見つかったのが最初」


アントンが眉をひそめる。

ミハイルは黙って聞いていた。


「そこからは、もうあっという間。

東南アジア、アフリカ、南米……気づいたら、ほぼ世界中に広がってた。

10年前に流行ったコロナの“動物版”って感じかな。

でも、こっちはもっと厄介」


ケイトは端末を操作しながら続けた。


「このウイルスは、脳神経に直接作用するの。

感染した動物は、凶暴になるだけじゃなくて――知能が上がる。

群れで連携したり、罠を仕掛けたり、意図的に人間の拠点を狙ったり。

……まるで、戦術を持ってるみたいに」


ミハイルの目が鋭くなった。


「でね……これはまだ仮説なんだけど、

もしかすると人工的に作られたウイルスかもしれないって話もあるの」


アントンが眉をひそめた。

「人工的に?」


ケイトは少しだけ声を落とした。


「うん。遺伝子配列に、自然界じゃちょっと考えづらい構造があって。

お姉さん的には……中国とか怪しいなって思ってるんだけど――」


彼女は急に手を振った。


「いやいや、証拠ないのにそんなこと言っちゃダメだよね。

ごめん、今のは忘れて。

ただ、誰かが意図的に作った可能性はあるってこと」


ミハイルは黙ったまま、拳を握っていた。


「それと、最近は空気感染も確認されてる。

つまり、接触しなくても感染する可能性があるってこと。

しかも――人間にも感染する可能性がある」


アントンが息を飲んだ。

「人間に?」


ケイトは頷いた。

「まだ確定じゃないけど、初期症状が出てる兵士の報告がいくつかある。

行動の異常、衝動性の増加……

でも、軍はまだ公式には認めてない」


「で、話は戻るけど、そんな凶獣化した野生動物に対抗するために、各国はいろいろ頑張ってるわけ。

ヨーロッパはね、人型ロボットとかドローンとか、いかにも“未来兵器”って感じのものを投入してるんだけど……正直、あまりうまくいってないみたい。」


アントンが腕を組みながら頷いた。


「ロシアもロボット路線。

こっちはいい線いってるんだけど、それでもまだまだかな。

耐久性とか、機動性とかすごいんだけど制御系のトラブルが多くて、実戦では不安定」


ミハイルは黙って聞いていた。


「日本はちょっと面白くてね。

なんと犬型のロボットを作ってるの。

あの国ではKAWAIIがやっぱり正義なのかな。

でもバカに出来なくて、四足歩行で、地形適応力が高くて、群れで連携もできるように設計されてる。

今のところ、実用性では一番高いって評価されてるよ」


アントンが少し驚いたように言った。

「犬型か……それは予想外だな」


ケイトは笑った。

「でしょ?でも、あれが一番“獣に近い動き”ができるんだって。

皮肉だよね。獣を倒すために、獣の形に近づいてる」


「じゃあ、アメリカは?」

アントンが聞いた。


ケイトは少し笑った。

「アメリカの上の人たちはね――

“やっぱり自分たちで倒さないと意味がない”って考える人が多いの」


彼女はラボの奥に目を向けた。


「だから、TALOSを作ることになったの。

人間が着て、動いて、戦う。

意思を持って、凶獣に立ち向かう。

……それが、ここでやってること

その設計者が私ってわけーー。」


彼女は少し笑った。

「……まぁ、なんて、かっこいいこと言ってるけど、でも実際はね、ちょっと問題があって」


アントンが目を向ける。


「実は、あんまりうまくいってないの。

スーツは動くし、理論上は完璧なんだけど――

実戦で使うには、まだ足りない。

反応速度、神経接続、負荷耐性……どれも“あと一歩”って感じ」


ミハイルは黙って聞いていた。


「でね、それを解決するために、いい案が浮かんだの。

でも、それには協力してくれる人が必要で……

しかも、ただの兵士じゃダメ。

現場を知ってて、戦える人。その上で協力してくれる人。

……ま、そんな人、なかなかいなくて」


彼女はミハイルとアントンを見て、少しだけ目を伏せた。


「だから、君たちが来るって聞いたとき、

正直、すごく嬉しかった。

でも……やっぱり頼むのは気が引けるかな」


沈黙が落ちた。

ミハイルは何も言わず、ただケイトを見ていた。


ケイトは急に手を叩いた。


「ま、そんな話は後で!

とりあえず、疲れただろうから一旦座って食事でもしよう。

うちの食堂、見た目は微妙だけど味は悪くないよ。

……たぶん」


アントンは苦笑した。

ミハイルは、少しだけ肩の力を抜いた。

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