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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第十七話 サバンナの王

風が止まった。

砂嵐の唸りが遠ざかり、代わりに聞こえてきたのは、低く、地を這うような咆哮だった。

王の到来を告げる咆哮だ。


ノアは、全てを悟った。

「……全てはこいつらの仕業か。」


彼は銃を握り直し、周囲を見渡した。


ライオンたちは、群れで動いていた。

だが、無秩序ではない。

統率され、選ばれた獲物を狙う動きをしている


ノアは経験則で知っている。

「野生動物の前では孤立した者が、最初に喰われる」


だからこそ、彼は自ら孤立することを選んだ。

彼に迷いはなかった。


「エリザ、アリーナを守れ。

俺が引きつける。……何としてでも生きろ!!」

その言葉に、エリザは一瞬だけ大きく目を開いたが、すぐに頷いた。


ノアは頭の中で、動線と遮蔽物、武器庫の位置、ライオンの配置を瞬時に計算する。

彼は自分がそこに動けばライオン達の包囲網がきっと崩れるだろうと信じ、一気に走りだした。


ーーだが、王の群れは動かない。


彼らは待っていた。

誰かが動くのを。

誰かが、崩れるのを。


ノアは銃を空に向けて発砲した。

乾いた音が夜を裂いた。

一頭が反応し、顔を向けた。

だがしかし、すぐに視線を逸らす。


「くっ……なぜこっちに来ない」

ノアは歯を食いしばった。


もう一発。

今度は地面に向けて撃った。

砂が舞い、音が響く。


「こっちだ!来いよ!

俺がいるぞ!」


だが、王達は動かない。

その群れは、集団の混乱を選んだのだ。


ノアはさらに走った。

群れの周囲を回り込み、注意を引き続ける。

その間に、エリザとアリーナが逃げられるようにと。


王の群れは、やっと静かに動き出した。

しかしそれはノアの方ではなく、集団の方へ向かって。


ノアは叫んだ。

「武器庫へ行け!撃てる者は撃て!

……生きろ!絶対に生きろ!」



エリザは、アリーナと数人の難民を庇いながら、

武器庫から取り出したFN Minimi軽機関銃を構えていた。

その目は、恐怖を超えた覚悟に満ちていた。


「アリーナ、伏せて。私が撃つ」

彼女は引き金を引いた。

銃声が夜を裂き、砂を巻き上げた。


一頭が倒れた。

だが、残りは止まらなかった。

王の群れは、死を恐れない。


エリザは叫びながら撃ち続けた。

「来るなら来い!!私は、お前らには、渡さない!」


何とか必死で致命的な攻撃を食い止めていたが、

しかし、もう、弾は尽きかけていた。

それを見越した一頭が背後から跳びかかる。

エリザは咄嗟にアリーナを抱き寄せ、覆い被さった。


「大丈夫。....怖くないよ。私がいるから」

その声は、アリーナの耳元で震えていた。


次の瞬間、エリザの背中に深く鋭い爪が突き刺さった。

彼女の体が震え、血がアリーナの肩に落ちた。


エリザは、何も言わずに崩れ落ちた。


「ま、待ってエリザ!ダメ、私まだエリザにお礼言ってないよ!!」

アリーナが叫ぶ。


その刹那、別のライオンがアリーナの腹部に噛み付く。

腹部から流れる血が、砂に染み込んでいく。

視界が揺れ、音が遠ざかっていく。


「……ダメだよ……」

彼女は震える声で言った。

「私……お礼言ってない……」


涙が頬を伝い、砂に混ざった。


「ノアにも……お兄ちゃんにも……」


彼女は、震える唇で最後の言葉を紡いだ。


「……ありがとう……エリザ……

ありがとう……ノア……

ありがとう……ミハイル兄ちゃん……」


そして、長い沈黙が訪れたーー。


---


ノアは、砂の中を走っていた。

咆哮が背後で響く。

だが、彼は振り返らなかった。

銃を握り、遮蔽物を渡り、獣の視線を引きつけながら、ただひたすら、二人を探していた。


「エリザ……アリーナ……」

声は風に消えた。

彼の足跡は、砂に飲まれていた。


ライオンたちは、彼を追わなかった。

王の群れは、すでに目的を果たしているようだった。

ノアはそれを知っていた。

それでも、希望を捨てなかった。


医療棟の裏手。

通信棟の脇。

倒れたテントの隙間。

彼は、血の匂いを辿って進んだ。


そして、見つけた。


崩れた医療テントの奥。

エリザは、アリーナを抱くように倒れていた。

その背中には、深く裂かれた爪痕。

アリーナの腹部からは、血が流れ、砂に染み込んでいた。


ノアは、何も言わなかった。

ただ、膝をつき、目を閉じた。


風が吹いた。

砂が舞った。

夜が、静かに彼らを包んでいた。


ノアは立ち上がった。

銃を背負い、ゆっくりと通信棟へ向かった。

足元は重く、空気は冷たかった。


通信棟の扉は半壊していた。

端末はノイズを吐き続けていた。

ノアはマイクに手を伸ばし、周波数を合わせた。


「……デルタ偵察班……応答願う……」

ノイズが返ってきた。

彼は、もう一度呼びかけた。


「ミハイル……」

声が震えた。


「……すまない。

すまない……ミハイル……」


ノアはマイクから手を離した。

通信機はノイズを吐き続けていたが、もう何も言うことはなかった。


彼は静かに立ち上がった。

通信棟の奥にある補給棚から、爆薬ユニットを取り出す。

小型だが、十分な破壊力を持つ。

本来は施設破壊用――だが、今はそれで十分だった。


ノアは爆薬を胸に抱え、起爆スイッチを確認した。

風が吹き抜け、砂が彼の足元を洗った。


外に出ると、ライオンたちはまだいた。

群れは散開し、血に染まった砂の上で静かに動いていた。


ノアはその中の一つの群れを見据えた。


ノアは最後に、空を見上げた。

星は、砂に霞んでいた。

その中に、エリザの声が、アリーナの笑顔が、ミハイルの瞳が浮かんだ。


そして、彼は走った。

爆薬を抱え、王の群れへ。

砂を蹴り、風を裂き、咆哮の中へ。


ライオンたちが動いた。

王が咆えた。

そして――


光が、夜を裂いた。


爆音が砂を巻き上げ、キャンプの一角が崩れた。

風が止まり、咆哮が消えた。


王達は初めて怯んだ。

そして草原の彼方へ逃げて行った。


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