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くまがあばれてテラフォーミング!  作者: 遊歩人


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第十話 記憶断片010-チーム・デルタ

2024年10月ーー。


訓練場の午後は、いつも砂埃と汗の匂いが混ざっていた。

ミハイル・コルネンコは、無言のまま指令棟前に立っていた。

半年間の基礎訓練を終え、ついに4人編成の戦術チームに配属される日だった。


ノアの声が、無線越しに響いた。


「デルタ班、集合。新人を迎えろ」


チーム・デルタの3人が、訓練棟の影から現れた。

それぞれの動きに無駄はなく、迷いもなかった。

彼らは、実戦経験を持つ選抜兵だった。


先頭に立つのは、チームリーダーのアントン・シュレーダー。

ドイツ出身の戦術担当で、冷静さと包容力を併せ持つ男だった。


彼はミハイルの前に立ち、軽く顎を引いて言った。


「アントン。デルタ班のリーダーだ。

お前の動きは記録で見た。命令には忠実だな。

それでいい。ここでは、それが一番大事だ」


ミハイルは、無言で彼を見つめた。


その隣で、マリク・ハサンが腕を組んでいた。

中東系の通信兵。目つきは鋭く、声は低い。


「…13歳? 冗談だろ。

こんな子供をチームに入れて、俺たちが保育係か?」


アントンは、マリクの言葉に動じず、静かに返した。


「命令だ。ノアが決めた。

それ以上の理由は必要ない」


最後に、ルカ・ヴィエリが肩をすくめながら口を開いた。

イタリア系の突撃兵。皮肉屋で、表情には常に余裕があった。


「ま、俺は歓迎するよ。

若いってのはいい。反射も速いし、膝もまだ壊れてない。

ただし――俺の邪魔だけはするなよ、天才くん」


ミハイルは、彼らの言葉に一切反応しなかった。

ただ、指令書を握りしめたまま、静かに立っていた。


アントンは、その様子を見て、短く言った。


「明日から訓練に入る。

お前の役割は、まず“聞くこと”だ。

話すのは、必要になってからでいい」


その言葉に、ミハイルは初めて小さく頷いた。


その夜、エリザが医療棟の前で彼らを迎えた。

アリーナが「お兄ちゃん、チーム入ったの?」と嬉しそうに駆け寄った。


ミハイルは、少しだけ立ち止まり、

アントンの背中を見てから、妹の頭を軽く撫でた。



チーム・デルタに配属後もミハイルの冷たい表情はさして変わらなかったが、訓練は日常のように続いた。

模擬戦、心理耐性テスト、通信障害下の連携訓練。ミハイルは少しずつ、兵士としての感覚を身につけていった。


アントンは彼に戦術の基礎を教え、マリクは通信兵としての精度を磨かせた。ルカは直接は教えてはくれなかったが、彼の動きを目で追って戦場での立ち回りを学んだ。

そしてミハイルは、まだ遠い初陣に向けて、静かに準備を重ねていた。



2025年10月ーー。


記録対象:チーム・デルタ/ミハイル・コルネンコ

任務:オペレーション・グレイライン/後方支援(通信・戦況監視)

場所:中東国境沿い・山岳地帯



ミハイルがチームに加入して1年が経った頃、チームデルタでの初の実戦任務に投入された。

彼はまだ14歳。規定により前線には立てないが、後方支援班として作戦に参加することが許された。


ノアは端末越しにミハイルを見つめていた。

その目には感情はない。ただ、任務の重さだけが宿っていた。


「ミハイル。お前の役割は通信維持と戦況監視。

失敗は許されない。命令を守れ。

感情は不要だ。任務だけを見ろ」

ミハイルは無言で頷いた



アントンは装備を整えながら、通信室の前で立ち止まった。

ミハイルの目を見て、短く言った。


「俺たちの動きは、お前の目にかかってる。

もし何か異常を見つけたら、迷わず言え。

お前の声が、俺たちを生かす」

ミハイルはまた無言で頷いた。



「ミハイル、敵の電子妨害が予測されている。バックアップ回線の維持は君の役目だ」

マリクは出撃前、短くそう告げた。



「お前はここで見てろ。邪魔すんなよ、天才くん」

ルカが出撃前に通信室へ顔を出し、いつもの調子で皮肉を飛ばした。


ミハイルは何も言わず、端末の画面に目を落とした。


ルカは少し眉を動かしながら呟いた


「…ま、見て学べ。俺たちがどう動くか」




夜の通信室は静かだった。

モニターの光だけが、壁に淡く反射していた。

ミハイルは椅子に座り、両手を端末に添えたまま、じっと画面を見つめていた。


午前03:40。

チームデルタがヘリで山岳地帯に降下。

ミハイルのモニターに、隊員たちの位置情報が浮かび上がる。


「ジャミング発生。メイン回線遮断」

マリクの声が通信に乗った。


ミハイルは即座に操作を切り替えた。

「第2衛星回線、オンライン。暗号再構築完了」


通信が復旧し、隊員たちの動きが再び画面に戻る。

ミハイルは軽く息を吐いた。だが、指は止めなかった。


---


敵の動きは複雑だった。

岩陰に潜む監視哨、移動する補給班、拠点周囲の地雷配置。

ミハイルはドローン映像と地形図を照合しながら、異常を探していた。


「北側、3名。岩陰に潜伏。ルカの進路に接近中」

ミハイルは即座に報告した。


「ルカ、後方確認しろ。ミハイルの報告通りだ」

アントンの声が冷静に響く。


画面の中で、ルカが振り返り、即座に応戦。

敵は排除された。


「…悪くない」

ルカの声が、通信越しに聞こえた。

皮肉ではなかった。

それが、ミハイルには少しだけ不思議だった。


---


作戦は順調に進んだ。

拠点は制圧され、隊員たちは無傷で帰還した。


ミハイルは、最後の通信ログを保存しながら、静かに椅子から立ち上がった。

その瞬間、通信室の扉が開き、ルカが缶ジュースを放った。


「…次は、俺の動きに合わせて先に言え。

 “命令される前に動く”ってやつ、そろそろ覚えろよ」


ミハイルは缶を受け取り、無言で頷いた。



この夜、ミハイルは初めて“命令”の外にあるものを感じた。

それは、仲間の命を預かる責任。

そして、誰かの声に応えるという感覚。


彼はまだ前線には立っていない。

だが、戦場の空気は、確かに彼の中に入り始めていた。

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