J へ
全てはあの時、あの瞬間から始まっていたんだ。
――――――――俺は気付くべきだった。あの瞬間に・・・。
昼、ファミレスでパスタの2杯目を頼んだ時、俺は明日の単発派遣の交通費が足りないことに気づいていた。
その日の夜、胸騒ぎがした。俺の直感はよく当たる。この胸騒ぎ……絶対って言っていい程、何かが起きる。そう確信した。
だから俺はできる限り、考えた。今日食べたパスタ代のせいで、明日の仕事に行く電車賃が足りないが、それはたいした問題じゃない。
足りない分の電車の距離は自転車で補えばいい。そう、ある程度の距離までは自転車で行き、そこから電車に乗ればいい。大丈夫だ。
そして今の俺に抜かりはない。自転車のタイヤの空気があまり入ってない・・・いいや、入ってるか、入ってないかじゃない。これは入れるか入れないかだ。
つまり今日、俺は自転車に空気を入れないとダメ!そう思い、自転車屋に行き空気を入れ帰路についた。
完璧・・・完璧だ。俺はそう思っていた。そう、あの時までは……。
次の日の朝、俺はスッキリとした気持ちで目覚めた。いい朝だ。
いつものLINEチェックを済ませ、駅までの距離と時間を確認した。
「大丈夫、絶対に間に合う」と呟くと、風呂に入り、服を着替える。
時刻を確認すると7時20分。絶好のスタートタイムだ。仕事は9時から。
ここから自転車で40分。そこから電車で20分。どんなに遅くても8時30分には職場につく。パーフェクト。完璧だ。
俺は家を出て自転車を漕ぎ始めた。全ては順調に進んでいるように思えた。
――――――――だが現実は甘くはなかったのだ。
後ろから何かが追ってくる気配を感じた。
「なんだ…?」思わず後ろを振り返ると、見えないがそこには【見えない何か】が俺に近づいてくるのがわかった。
危機感を感じた俺は、焦ってペダルを漕いだ。だが見えない何かは迫ってくる。
俺は力いっぱいペダルを強く踏み込んで漕いだ。
そして何事もなければ乗るはずだった、自宅最寄り駅に到着した頃、振り返ると奴の姿は消えていた。
俺は安堵した。
「ここで終わりか・・・」と思い、再び漕ぎ始める瞬間だった。
突如、見えない何かは、見える女神になって目の前に現れた。
「お、お前は・・・な…何で…なんだ…どうして俺なんだ…お前は J の…」
完璧なはずと思われた俺の計画。だが、時にこの世の物理法則で測れないものは、これまで積み上げてきた俺の準備や努力をあざ笑う。
目の前にいる、女神は優しく微笑みながら消えていった。
その直後だ。自転車は――――――――パンクした。
その女神とはパンクの女神だった。
貴様のせいだ。
不確定要素に対し俺は完璧と言っていい程、不測の事態に備えたはずだ。
だが――――自転車がパンクするというのは、俺にとって予期せぬアクシデントだった。
「遅刻確定……いや、もう間に合わないな」
空を見上げながら俺はそう確信したのだった。
申し訳ありません。
短編と連載を間違えました。
この物語は短編です。






