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第25話:ギロチンが落ちた音が聞こえる

あらすじ:スミレがいない間にセシルは強盗たちを説得するのだが、聞く耳を持ってくれない。ついにスミレが帰ってきた。



◆◆◆◆



 おろおろするレストランの店員や客をよそに、僕は椅子から立ち上がって、強盗たちのボスらしい眼帯の大男に駆け寄る。


「なんだお前?」


 ボスは怪訝そうな顔をするけど、僕は彼にすがりつく。


「まだ間に合いますから! 早く逃げて下さい!」


 この際騎士団を呼ぶのは後だ。レストランが血の海になる前に、彼らが立ち去ってくれればその方がいい。


 でも、必死な僕をよそに、強盗たちは顔を見合わせて大笑いした。


「残念だったら、こっちはキリワタリの原盤を使ってんだ。そう簡単に騎士団は入ってこないぜ」

「そうそう。俺たちをビビらせてやり過ごそうなんて甘いんだよ」


 キリワタリ。確か五感を狂わせる霧を発生させる中層の複眼だ。どうやらこのレストランはその霧で包まれているらしい。


「そうじゃないんですってば!」


 僕が叫んでいるのははったりじゃない。スミレが帰ってくる前になんとか退散してもらわないと、彼らの首が胴体と離ればなれになりかねない。


「うるせぇガキがっ!」


 僕はボスに襟首をつかまれて持ち上げられた。


「俺たちを舐めてんのかお前!?」


 身体強化の権能を使っているらしく、ボスの手は万力のような怪力だ。


「おとなしくしてればこれ以上手荒な真似はしないぜ。まずは金だ。お前らも財布の中身を全部テーブルの上に出しな!」


 ボスが叫ぶと、周囲にいた手下たちが客に対してクロスボウを突きつけた。


「そんな悠長なこと言ってないで――」

「いい加減にしろ! 一発殴られなくちゃ分からねえかぁ!?」


 宙づりになった僕に、ボスは拳を振り上げた。


 この際殴られるのは構わない。いっそ僕でうっぷんを晴らしてくれれば、ほかの人には危害は加えないだろうし。あの結晶カマキリに比べれば、暴漢程度さほど怖くはない。むしろ怖いのは、怖いのは――



「――『セシルにないをしちょっとじゃ』?」



「ひいっ!?」


 遅かった。ギロチンが落ちた音が聞こえる。宙づりにされながらも僕は後ろを振り向く。


 ――スミレが無表情で立っていた。


「ス、スミレ!? 落ち着いて!? ね? ね? 僕は暴力だと思ってないからこれ!」


 無表情なのがめちゃくちゃ怖い。スミレは怒ってさえいない。もちろん当惑もしていない。複眼のような人間味のない目だ。完全に目の前の強盗たちを人間とは見ていないのがよく分かる。そして、案の定強盗たちは危機感がない。


「おい兄ちゃん、あの子――お前のなんだ?」


 僕が必死なのを気付いたらしく、ボスが僕に顔を近づけて脅す。


「ぜひ聞きたいよなあ」


 そう言うと、周りの男たちも大きくうなずいている。心なしか、彼らの目に嫉妬の炎が燃え盛っているように見えるんだけど。


「あ、あはは……」


 僕は愛想笑いしたけど、状況は何も変わらない。


「……です」

「は?」


 改めて言うとなると、こんな状況でも恥ずかしさがこみ上げてきた。


「……しい子です」

「聞こえねえなあ! 男なら大声出せ!」


 ボスが耳元でどなるので、僕は目をつぶって叫んだ。


「か、彼女になってほしい子です!」

「はい決定」

「ぶっ殺す」

「嫌味かお前!?」

「死ね!」


 案の定、僕は彼らの逆鱗に触れてしまった。


「や、やめてください!」


 僕が襟首を掴むボスの手を振りほどこうとした時だった。ふらり、とスミレが無言で前に出た。どん、と腹に響く音がする。悲鳴さえ上げずに、強盗の一人が真横にすっ飛んで壁に激突した。


「……へ?」


 手のひらを当てただけにしか見えなかったのに、なんで大の大人を吹っ飛ばせるわけ? さらにスミレが一歩前に足を踏み出す。


 大げさな動きなんか何一つなく、一人の強盗の足を払う。転んだ強盗の顎にスミレが手のひらを当てた瞬間、その巨体が宙を舞った。流れるようにスミレが三人目の手を掴む。全然力を入れる様子もないのに、軽々と男の体が背負い投げでテーブルに叩き付けられた。追撃でスミレが身を屈めて拳を一度当て、強盗が白目をむいて気絶する。


「セシルに乱暴をするようでしたら、容赦いたしません」


 瞬く間に三人の強盗を素手で倒したスミレが、ゆらりと身を起こす。めちゃくちゃ怖い。威嚇する複眼の紅霞バチなんか目じゃないくらい怖い。


「まだされてないから、ね!?」

「まあ、見たところ殺気は一人を除いてあまりないようですが」


 僕のフォローを聞き流しつつ、スミレは横を見た。


「この小娘! そんなにぶち殺されたいのかぁ!」


 強盗の中で一番でかい巨漢。レストランに入ってきた時から一番危なそうな雰囲気だった奴だ。そいつが、ポケットから出した錠剤のようなものを口に放り込んで噛み砕くのと同時に、全身から黒い液体を噴出させた。あっという間にそれは空気に触れて硬化し、体を覆う甲殻に変わっていく。



◆◆◆◆




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