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第23話:セップクします!

あらすじ:ほんのこて済まんやった。今から腹を切って詫ぶっで最後までしっかり見届けてほしか。こいが男ん謝罪じゃ!



◆◆◆◆



「スミレが望むなら、腹だって切ります! セップクします!」


 がばっ、と頭を上げて僕はスミレに叫ぶ。確か腹を切る、というのが東の国では心から責任を取ることの表現だったはずだ。


「セシル、何もそこまで言わなくても」

「僕は本気です!」


 ここでさっさと納得したら、本気の謝罪とは言えない。だから僕はなおも食い下がった。


「そうですか――」


 スミレの目が細められた。その眼光が研ぎ澄まされた殺気を帯びる。


「――私も本気にしますよ?」

「ひいっ!?」


 サムライの鋭い目ににらまれ、僕はびっくりした子イヌのように跳び上がった。自分の頭の悪さが嫌になる。腹を切るって慣用句じゃないんだ。いきなりスミレが「では、割腹で謝意を」なんて言いながら小刀を僕に差し出したら困る。


 ――いや、むしろ。


「では」


 すっ――と僕の腹部に走る一筋の赤い線。


「え……あ……」

「――介錯仕る」


 スミレの手にはいつの間にか抜かれた小刀。したたりおちる赤い雫。上着の腹の部分が見る見るうちに染まっていく。そして腹圧でアレが……。体ががたがた震えだした。想像なのに死のイメージがリアルすぎる。何この命がけのデート。


「落ち着いてください、セシル。どうぞあの時を思い出してください」


 完全に腰が抜けた僕を見下ろし、心配した顔でスミレが言う。


「あ、あの時……?」

「結晶カマキリに挑んだ時です。あの時のあなたは、千の修羅場を潜った武者の如く落ち着いていましたよ」


 それは、たぶん背にスミレがいたからだ。僕一人なら悲鳴を上げて逃げていた。


「僕は、スミレの思っているように強くないよ。きっと、君ががっかりするほど弱いから」


 ようやく立ち上がることができたけど、僕は情けなさに穴があったら入りたかった。女の子に気の利いた言葉一つかけられないばかりか、ナイトとしても冒険家としても弱い。もう僕にいいところなんて何一つないんじゃないか、とまで思えてきた。


「私は、セシルに逢引に誘っていただいてとても嬉しかったです。刀を求められるのではなく、私を一人の女として見て下さっていることに、胸がときめきました」


 でも、そんな僕を笑うことなく、スミレはむしろ励ますようにそんなことを言ってくれた。


「セシルは、私とのこの時間はただの戯れですか?」

「そんなことないよ!」


 だからこそだろう。僕はスミレに励まされ、今度こそ本心を声に出す。あの時結晶カマキリに対峙した時のように。スミレの盾となって死ぬ覚悟さえ決めた時のように。僕はなけなしの勇気を振り絞る。


「初めて君を遺跡で見た時から、なんて綺麗な子なんだろうって思ってた。お淑やかで、落ち着いていて、華やかで――しかもとてつもなく強くて」


 強さ。その言葉に僕はまたも足がすくむ。


「僕のようなナイトの見習いが……」


 でも、スミレは僕を助けてくれた。


「セシル。どうかご自分に自信を持って」


 ああそうだ。勇気を出せ。僕はナイトだ。ナイトでありたい。


「僕は君よりも強くない。でも、君のことを思う気持ちだけは、君のことを知りたい、君と親しくなりたいという気持ちだけは――」


 そうだ。弱い僕でも、そこだけは――


「――きっと、ううん、絶対スミレの親族以外には負けないつもりだ」


 僕はそう言いきって、スミレの手を取った。


「君と過ごしたい思いは、気まぐれでも戯れでもない。本気なんだ」


 思えばずっと、僕は遠慮してこういう力強いことは言わなかった。戦闘民族のスミレはさぞかし歯がゆかっただろう。


「やっと、おっしゃってくれましたね。あなたの本音を、ようやく聞くことが出来ました」


 スミレはようやく、笑顔を見せてくれた。陽光に輝く彼女の刃のような、きらめく笑顔を。


「セシル、あなたは強い男子です。そんなあなたにこそ、私も身を任せたいと思います」

「うん、僕に任せて」


 こんなナイトに寄り添ってくれるスミレがありがたかった。



◆◆◆◆




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