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第20話:うん、とても可愛い

あらすじ:デート当日。洋装のスミレとデートするセシルだった。



◆◆◆◆



 公園の噴水前が、デートの待ち合わせの場所だった。緊張してしょうがない。懐中時計を見る。約束の時間まで残り三十分。


「ああ……待たせるのは失礼だけど、待ってる時間が辛いよ……」


 ローガンさんもイザベラさんも、もしかしたらアンナもどこかで僕たちを見張っているだろうか。たとえそうだとしても、みんなに気を配ることは不可能だ。


 十五分経ってから、スミレが現れた。


「セシル、お待たせしました」

「ス、スミレ……」


 スミレは着物じゃなくて、洋服を着ている。ふんわりしたフレアスカートにリボンをあしらった上着と帽子。手にはハンドバッグ。ブーツに白のタイツ。露出が少なくてフリルの多い服装だから、いつもよりもさらにお淑やかで、深層のお嬢様って感じだ。


「どうでしょうか、この装束は。その、洋装はあまり慣れておりませんので…………」


 ブーツが慣れないのか、ちらちらと自分の足元を見ているスミレ。


「殿方の目から見て、似合っているでしょうか……?」

「す……」

「す?」

「すごく似合ってるよ、スミレ!」


 思わず僕は両手を握りしめて力説してしまった。だって本当に可愛いんだから仕方ない。


「本当ですか?」

「うん、とても可愛い」


 さっとスミレの顔が朱に染まった。


「そ、そんなことを真っ直ぐに言われてしまうと、恥ずかしいです……」


うわあ。本当に、我ながら語彙が少ないと思うけど可愛いよ、この子。いつもの戦闘狂っぷりがどこにもない。


「もう、あまり私を恥じらわせて楽しまないで下さい。セシルは意地悪です」

「あ、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」


 ……きっと今頃、どこかで見ているローガンさんたちはお腹いっぱいの顔をしているだろうなあ。でも、これは僕のデートだ。初々しくて見ていられないかもしれないけど、スミレを何よりも楽しませたいし、僕も楽しみたい。


「じゃあ、行こうか」

「はい、喜んで」


 スミレがおずおずと手を出すので、僕は手を取る。スミレのそれは、本当に刀を握る手なのか、と思うくらい細くてきれいな手と指だった。スミレの腰を見ると、不可分なくらいいつも身につけていた刀がない。今日のスミレは武装していない。つまりそれは、何かあったら僕が彼女を守らなくてはいけないんだ。その事実に僕は少し背筋を伸ばした。



◆◆◆◆



 楔石の町は、冒険家たちのための町だ。でも同時に、学院の本舎が置かれ、大陸中の商人が集まる商業と学術の都市でもある。


「セシル、見て下さい! あれは何でしょうか!?」


 スミレが着ぐるみを交えたパフォーマンスを指さして、はしゃいだ声を上げている。楽器を演奏する演奏家の周囲で、微妙にブサイクな鳥の着ぐるみたちが踊っていた。


「大道芸人だね。パフォーマンスを見せて収入を得ているんだ」


 あんな大がかりな大道芸を見るのは、どうやらスミレは初めてらしい。でも、僕の説明でスミレは納得したみたいだ。


「ああ、軽業師ですね。しかし、これは何とも――」

「年々大掛かりなのが増えていくみたいだね」


 手を振る着ぐるみの横を、僕たちも手を振りながら通り過ぎる。


「こっちの地区にはスミレは来たことがなかったんだ」


 スミレはうなずく。


「ええ。故郷から船を乗り継いでここに来てから、すぐに冒険家の組合の門を叩きましたので。この町にこのような楽しげな場所があるとは、今日初めて知りました」


 つくづく、サムライはストイックな人たちだ。


「もしかして僕、スミレの鍛錬の邪魔をしちゃったかな?」


 つい気になって僕は尋ねる。


「千日の稽古を『鍛』、万日の稽古を『錬』と言います。しかし――」


 スミレはそこまで真面目な顔で言ってから、頬を緩めた。


「このような日も、悪くありません。兄上と姉上も、お許し下さることでしょう」


 僕は内心で、スミレのまだ見ぬ兄と姉に感謝した。あなたの妹は、とても立派なサムライになっています。



◆◆◆◆




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