第七話
十一月二十六日。ライブの一週間前。
午後十二時。
いつも使っている貸しスタジオ。
最後の音合わせのために、美月達は集まっていた。
美月はそこで、アドリブ曲を愛奈と優里亜に聴かせた。急ピッチで作成した曲。他の曲に比べると、短く、単純な曲調。構成。けれど、尖りに尖った曲。
愛奈も優里亜も笑っていた。愛奈は、闘争心を漲らせるような笑顔。優里亜は、どこか楽しそうな笑顔。
「なかなかヤバい曲だね」
「うん。そう思う。でも、だからこそ、盛り上がると思う」
「わかる。でも、ね」
「何?」
「一番と二番は分かるよ。一番は日野先生、二番は鳥取先輩でしょ?」
「やっぱり分かる?」
「そりゃあね。でも、三番は誰のこと?」
「……」
答えを言おうとして、美月は口を噤んだ。
この二人になら、教えてもいいと思う。この二人なら、たとえ事実を知っても、これまでと変わらずに付き合ってくれるだろう。
美月は、固く閉じた唇を開いた。二人に伝えた。自分の、出生のこと。母親のこと。華村真美の、本当の顔。彼女のSNSとは異なる、実際の親子関係。
全てを話したとき、優里亜が聞いてきた。
「本当にいいの? 美月。そんなパフォーマンスしちゃって」
躊躇わず、美月は頷いた。自分の手にあるものは、何でも使う。七光りであろうと、何であろうと。好きなものも、嫌いなものも。今ある全てのものを使って、名前を売って。
そこからさらに昇れるかは、実力次第だ。
「じゃあ、いっそ、この曲をラストに持ってこようか」
愛奈が提案してきた。
「それほど長くない曲だし、ラストの方がインパクトあるだろうし」
「いいの? 自分で言うのもなんだけど、結構メチャクチャな曲だよ?」
「いいんじゃない? メチャクチャで。最後の最後でぶっ飛んだ曲やるのも、面白いだろうし」
「かもね」
愛奈と優里亜が笑い合っている。二人で、美月が作った曲の楽譜を見ながら、何やら話し込んでいる。
一通り話した後、二人は美月に言ってきた。
「じゃあ、せっかくだから、この曲から合せようか」
再度頷いて、美月はマイクを手に取った。