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第十話


 十二月二十二日。

 二学期最後の日。


 終業式を終えて、美月は帰路についていた。

 気温はマイナス。寒さが肌に刺さる。


 美月の隣りでは、明人が一緒に歩いていた。


『今日、一緒に帰ろう』


 終業式の前に、美月から明人を誘った。


 ――あのライブの後。

 

 美月達のライブが、有名な動画サイトにアップロードされた。


 アップロードしたのが誰かなんて、美月には分からない。

 ただ、動画のアクセス数は一〇〇万以上まで跳ね上がり、美月達は、一気に名前を知られることとなった。


 圧倒的な歌唱力を持つ、華村真美の娘。

 話題性は十分過ぎるほどだった。

 ライブからまだ一ヶ月も経っていないのに、美月には、すでに複数の音楽事務所から声がかかっていた。


 美月は、全ての音楽事務所にこんな返答をしていた。


「愛奈と優里亜も一緒にやりたい。あと、もう一人、ドラムが加わる予定なの」


 どの事務所からも、好意的な返答が来ている。


 これから先のことは、愛奈や優里亜と話し合って、じっくりと決めていこう。

 そんなふうに思っていた。


 学校からの帰り道。

 地面は雪で覆われている。

 空からは、チラチラと雪が降っていた。


「ねえ、明人」


 歩きながら、声を掛けた。


「何だ?」

「今さらだけどさ。私が華村真美の娘だって知って、どう思った?」

「いや。別に」


 明人の言葉には、何の飾りもなかった。


「以前に言った通りだよ。誰の娘であろうと、美月は美月だろ」

「変に思ったりは?」

「しない」

「軽そうな女だとは?」

「思ってない」

「浮気しそうな女だとは?」

「思ってない」

「肉食系だ、とかは?」

「それは知らん」


 言葉通り、明人は、美月が華村真美の娘と知っても、態度を変えなかった。それが嬉しくて、つい口の端が上がる。少し挑発的なことを言って、反応を見たくなる。彼の反応次第で、頼みごとの切り出し方を決めよう。


「じゃあさ、明人」

「ん?」

「もし、私が肉食系だとして」

「うん」

「明人に迫ったら、どうする?」


 少しは照れるかな、なんて思っていた。でも、明人は、いつもと変わらない様子で返答してきた。


「そりゃ、即ヤるだろ」


 明人は賢い。彼自身が言う通り、本当に天才なのだろう。だから、気付いているはずだ。美月の気持ちに。美月が、どうしたいかに。


「じゃあ、さ。お願い聞いてくれたら、迫ろうか?」

「……何をすればいい?」


 質問が返ってきた。

 けれど、明人は分かっているはずだ。


「ドラム、始めてよ。私達のバンドで」


 美月は立ち止まった。

 美月に合わせるように、明人も立ち止まった。


 じっと見つめ合う。いつかのカラオケボックスのように。


「明人、天才なんでしょ? でも、死に物狂いになれないから、そこそこで終わるんでしょ?」

「まあ、な」

「じゃあ、私達の――私のために、死に物狂いになってみて。私が、明人に迫りたくなるくらいに」


 見つめ合いながら、しばし沈黙した。


 年末間近の冬の空気が、冷たい。

 かすかに舞う雪が頬に触れて、ひんやりとした。でも、内側から、胸が熱くなってもいる。


 明人は、少しだけ笑った。

 彼の口が動いた。


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