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彫り物戦記

 今は昔、「彫師」という職業の者がいた。彼らに絵を掘られた者は、その絵に関係した能力を使うことが出来るようになるという、不思議な技を扱う職人であった。


 「彫師」に絵を掘られ能力を得た者は、「侠客」と呼ばれた。


 彼ら「彫師」はその能力を使い、「侠客」を集め、幕府のために働く裏の組織として活動していたが、定期的に「侠客」同士が戦う興行を、幕府公認で興していた。


 もちろん幕府は、自らが主催する公的な賭博での収入も狙っているのだが、そんなことは関係ない。ただ言えることは、この「彫り物いくさ」が、今や江戸中で爆発的な人気を博している、ということだ。


 今日も、幾人もの「彫師」に育てられた、幾人もの「侠客」同士の、熱い戦いが始まる…。



「というのを考えたんですがね、どうですかい親方」

「お前はいつまでもバカなことを言ってんじゃないよ」


 親方は煙草盆にキセルをかんっとやって、さらに若衆を叱る。


「今日日、彫り物に世間様はうるさいんだよ。そんな黄表紙出したらお上に怒られっちまうよ」

「そうですかねぇ。逆にあっしはもうちっと破天荒になってもいいんじゃねぇかって考えちまいますが」


 親方は少し黙ったあと、「そんなら」と口を切る。


「聞くがね。例えば背中に火を背負ったやつぁ、なんの能力なんだい」

「そりゃ火でしょう。どんな相手でも燃やしまさぁ」

「じゃあよ。背中に鯉の滝登りを背負ったやつぁ、どうなるのかね」

「そりゃ水で攻撃でぇ。鯉もついでに打ち出しちまうってのはどうですかい。ぴちぴち、ってなもんで。へへ」


 親方はため息をつきながら、さらに若衆に問う。


「ではよ。菩薩様を背中に描いてるのはどうなるんだい」

「へぇ。菩薩様が出てきて戦やいいんでないかな」

「さっきから聞いてりゃ、お前はバカかい」


 親方は、若衆に噛んで含めるように言い聞かせる。


「いいかい。お話や物語というものはね、料理と同じさ。まず素材を用意するわけだ。そしてその素材をどう味付けするか。調味料は何を使う? 按配は? 焼きか? 茹でか? 汁物か? 出汁は? とまぁ、考えに考えて、出来上がった美味しい料理をお客に出す。そういうことさ」


 我ながら良い例え話が出来た、とご満悦な親方。若衆は珍しく考え込む。


「はぁ、なるほどねぇ。物語は料理か。良いことを聞いた。やっぱり料理といえば出汁が大事だわな。親方、あっしは考え付いちまいましたよ」

「なにをだい」

「あっしの彫り物話に美味い出汁を足したら、それこそ掘り出し物になりまさぁ」

「ボツ」

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