天才数学少年ススム君。点Pちゃんと夏祭り
ススム君は数学が天才的に得意だった故にクラスメイトからの質問も多く、時には嬉々として答えたが、どうしても一つだけ嫌いな問題があった。それは、△ABCにおける点Pの問題だった……。
「なんやねん。点Pって……」
何故Pという奴は三角形の辺の上しか進めないのか?
蟻なのか?
点Pは細い茎の上を進む蟻なのか?
「あー、やめた! やる気せぇへん!」
ススム君はその日の宿題を投げた。
「ススムー? 点Pちゃんが遊びに来たわよー?」
「……は?」
数学のし過ぎでついに耳までおかしくなったか。と、一階へ降りたススム君の目の前に、笑顔の美しいお姉さんが現れた。
「初めましてススム君。先程解いて頂けなかった点Pです」
「……どちら様で?」
「『△ABCの点Aから点Bに向かって、秒速3cmで進む時、五秒後における△ABPの面積の値を求めよ』の、点Pちゃんです♪」
つい先程ススム君が投げ出した問題と全く同じ事を、目の前に居る長い髪の笑顔の美しいお姉さんが語った。
ススム君は思った。
(自分でちゃん付けするんかい……)
「上がってもいい?」
「えっ……」
ススム君は思った。知らないお姉さんを部屋に上げるのはどうなのか?
しかし目の前にお姉さんが悪霊の類いだとしたならば。と、断腸の思いで部屋へあげることにした。
──が
「……お姉さん遅いな」
「秒速3cmだからね」
カタツムリの様な足取りでゆっくりと進むお姉さんに、ススム君はイライラしながら部屋へと戻りました。
「ゴメンね、ゆっくりで。あ……花火」
ススム君の部屋の窓からは、町の夏祭りで打ち上がる花火が見えました。
「毎年やるから珍しくも何ともない。うるさいだけ」
「でも、綺麗だよ?」
「勉強の邪魔や。てか、お姉さん何なん?」
「夏の幻影みたいなものかな。私を解いてよ」
「点Pは嫌いや」
「ダメ?」
可愛らしくお願いするお姉さんに、ススム君は渋い顔を返しました。
「ま、解いちゃうと私消えちゃうんだけどね」
「じゃあ解く」
「ふふ、ありがとう」
答え合わせをし、正解して当たり前のススム君は、特に顔色も変えず、消えゆくお姉さんをまじまじと見つめ続けました。
「解いてくれてありがとう」
「二度とくるなや」
ススム君は宿題を閉じてジッと空を眺めました。
「たまには他の教科もやるか……」
「ススムー! 臆病な自尊心ちゃんと尊大な羞恥心ちゃんが遊びに来たわよー!?」
「あかん! 母ちゃんそいつらマジ意味分からん奴らや! 帰ってもらってーー!!」