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ロードが入る生活

作者: 平之和移
掲載日:2022/11/09

Now Loading……

 

 神奈川県は鵠沼くげぬま、藤沢駅のお昼頃。オレはビックカメラ前の休憩所で一人、友人を待ちぼうけていた。


 休日ということもあって、いつもより人が多い。しかしそこらじゅうにある看板のせいで、活気というものは見当たらない。


 看板にはこう書かれている。


「処理落ちを防ぐため、密集しないでください」


 密集だけでなく、服装にも気を配らないといけない。現にオレは無地のシャツとジーンズだ。ビックカメラだって、昔はガンガン流していた広告放送も控えている。近くの芝生にさえ誰もいない。学生で賑わっていたのに。


 時間を見るためポケットからスマホを取ろうとする。世界のフレームレートが下がっているせいで手の動きがガクガクだ。脳が認識もできず、中々スマホが現れない。ようやく手にして起動すると、もうすぐ十時。苛立ちが沸き立つ。


 さてさてと顔を上げる。嫌になるほど見慣れた反応を見るために。


 十時になった瞬間、世界が止まる。


 大樹近くのベンチにいるおばさんも、市役所に向かう男性も、このご時世にもいる活動家のチラシ配りも、全て止まった。オレだって目線を動かせない。


 少しして、時は思い出したかのように動き出す。太陽が残像を残して移動し、歩行中の何人かはすっ転ぶ。タクシーがクラクションを鳴らしている。


 そんな視界の中に見覚えのあるシルエットが参上。アロハシャツを着たラフで爽やかそうな青年。待ち合わせをしていた友人だ。まだ世界はガタガタであるため、喋りかけようとする友人の口をマジマジと見てしまう。


「やぁ」しばらく処理落ち。「久しぶり」


「あぁ」しばらく処理落ち。「久しぶり」


「積もる話もあるだろうし」フレームレートが安定しだし、友人の動きも低予算アニメぐらいにはなる。「スタバに行こうか」


「スタバ? 駅内の?」


「そ。あの人通りが多いところ」


 友人はいつも奇想天外。こちらにとって理解できないことをたくさんする。だからこの提案も無下にはしなかった。


 北口の広場を行き、駅に入った。すると世界が暗闇に包まれ、「Now Loading……」と簡素な文字が目の前に登場。現在ロード中だ。レトロゲームみたいに、エリアを跨ぐとすぐロードだ。藤沢だから頻度は少なくて済むが、東京都だと百メートルでロードを挟むらしい。そろそろ地方へ人々が逃げ出すだろう。


 駅内も処理落ち中。ちょうど、小田急線から降りた人々が階段を上がってくる。もちろん階段もロードを挟み、抜けた人々が一斉にポップする。何度も世界が止まりスタバに着くのに体感二十分。このロード時間で寿命は不快を伴って伸びている。


 こんな時でも新作を出すのがスタバだ。友人は遠慮なく二つ頼み、極度に少ないテーブルの一つに対面で座る。


「どうしてここなんだ」当然の疑問をぶつける。「少し行けばドトールとか、下にはロード挟んで別エリアのカフェあるし」


「考え事にいいのさ」


 ここはスタバだけでなく、本屋に三百円ショップが一緒に存在している。そちらに流れる客のせいで、コーヒーを飲むオレ達もカクカクになる。


 友人は意にもせず、手を組み顔を寄せてくる。


「ところで。この世界にはなぜロードが必要になったと思う?」


「必要? その言葉が適切なのか?」


「そうとも。不可欠だからね」


 久々に会って話すことが哲学とは。彼が昔話をするもの似合わないけれども。


「この世界は」指を振り、コーヒーを飲もうとするオレの注目を集める。「情報量がバカみたいに増えた。異常に、過剰に」


「例えば?」言葉を促してコーヒーを飲む時間を稼ぐ。


「戦争、紛争、疫病、多すぎる有名人、多すぎる命、無駄に増えすぎた電子情報……極めつけは、広すぎる宇宙の情報がこの地球に、この惑星一つに集まっている。世界はもうロードフリーのオープンワールドではいられなくなった」


「そんな単純な話か?」シロップの置き場所を眺めながらそう言う。目の前の奴はシロップを入れに立つことを許さないだろう。


「人間は記憶全てを保持できない。忘れないとね。コンピュータだって全てのデータを格納できない。容量の飽きを確保するため大昔のデータは捨てないとね。まぁ、ネットではほとんどされていないけど」


「じゃあ耐えられなくなったのはオレ達じゃないか」


 オレがそう言うと、友人は興味深そうに眉を上げた。喉の乾きを潤すため一口飲み、今度は椅子に持たれ始めた。彼は、


「脳の処理が追いつかなくてか」


 と、少し楽しそうに言葉を繰り出した。「それもありそうだ」と否定せず受け入れた。


「今日はなぜここに来たと思う?」


 突然の話題転換。砂糖を追加したいと思いながら、ため息と共に返答する。


「考え事にいいからだろ?」


「"ここ"とは藤沢のことさ」


 友人はそう言うとコーヒーを飲み干し、立った。オレも急いで飲んで立った。


 外に出る。藤沢駅南口二階。有隣堂近く、バスロータリーを見下ろせる位置。この遊歩道の上にはそこそこの人が集まっている。ビックカメラとは駅を挟んで反対側であり、バスやタクシーが行き交い処理落ちが激しい。


「今日は月食なんだ」


 タイミングよく、空が夜へ近づいていく。


 オレ達は隠れゆく陰陽を眺め続ける。友人は、目をそらさずに言う。


「アフリカの角で予告されているウイルステロは今この時間に起こすと予告されている。G7とかも、次回五輪開催地の発表、大国の演習、その他、あらゆるビッグイベントが今日にたまたま集中した」


「それじゃあ……」


「データとは、致命傷ではなく蓄積で停止する」


 月と太陽が重なる。世界を照らすのは神々しい白輪。世界はそれに魅了されたように、凍りついた。


 俺の目には、止まった月食が写り続ける。首も何も動かせない。


 それでも、意識は続いている。

 

 グルグル、グルグル。


 Now Loading……

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