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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

散った悪女の侍女は何を望む

とある言語を使わせていただいております。

ご了承ください。

(2023/2/19 大幅な加筆・修正)


「……っっっお嬢様あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」


 まだ成人していない、少女の声が()()()に響き渡る。

 その少女は、絶望したかのように泣き崩れると、ぶつぶつと呟く。

「……許さない。許さない、許さない……。」


 ◇


 ここは、シヴァ王国。

 今、聖女を害した罪で一人の令嬢が処刑される。


 その令嬢は、元聖女候補であり、王太子の婚約者でもあった公爵令嬢のウヴィア・ダッジ。

 ウヴィアは処刑場に一人の侍女を連れ、ピンと背筋を伸ばして入ってきた。


 歩いた先にいる王族―――王太子と王、王妃に王太子の現在の婚約者、聖女のシィア・ヴィレッジと、ウヴィアは真っ直ぐ向かい合う。


「……ウヴィア。本当に罪を認めないのか?」

「くどいですわ、殿下。」


 王太子がウヴィアに話しかけるが、彼女はその美しいアメジストの瞳を細めて一蹴する。


「っ……!」


 その瞳に、王太子の横に座っていたシィアが身をこわばらせる。


「シィア、大丈夫か?」

「え、ええ、アラン様……。」


 シィアは震える手で王太子―――アトラント・シヴァにすがりつく。


「ウヴィア……! お前……!」


 ウヴィアはそんな王太子にバレないように、はぁ、とため息をつく。


「私はシィア様に何もしておりません。

 何もしていないのにお前と言われましても。」


「…ふん。まぁいい。

 そうやって言っていられるのも今のうちだ。」


 そう言って、ニヤリ、とその美貌にふさわしくない邪悪な笑みを浮かべる王太子。


「……。」


 そんな王太子から視線を外し、王たちの方へと視線を向けるウヴィア。


「すまなかった。」


 そんな王の言葉にも揺らがず、ウヴィアはただ凛と佇んでいる。

 ただ、王太子だけが眉をひそめる。


「いえ。陛下が謝られることではありません。」


 そうウヴィアが返した時、処刑執行人の声がする。


「時間が迫っているので、お早く。」


 淡々とそう告げる執行人。

 その目尻には、なにかが光っていた。


「ええ。わかっています。」


 ウヴィアは再び歩き出す。


 そしてウヴィアが処刑場となっている広間についた途端、広間にいた民衆が騒ぎ始める。


「聖女様を殺そうとするなんて!」

「この悪女が!」

「聖女様に謝罪しろ!」

「公爵様は人格者なのに、娘にそれは受け継げれなかったみたいだね!」


 様々な罵詈雑言を受け、それでもなお、胸を張っているウヴィアに気圧されたのか、徐々に民衆の声が小さくなっていく。


 その時。


「アラン様、もうこんなのやめましょう?」


 その声が響いた。

 それは、少し遠くにいる聖女シィアの声。


 どうやら自身の婚約者であるアランに、この処刑を辞めるよう説得しているようだ。


 ウヴィアのはそんな彼女を一瞥する。

(―――本当にお馬鹿な子。王太子に、それに陛下までもが決定した処刑が、そんなに簡単に撤回できるわけがない。)


 ウヴィアは心のなかで吐き捨てると、執行人を見やる。


「……。」


 執行人は沈黙を貫いていた。

 だが、腕時計を確認する仕草を見せ、口を開く。


「時間です。」


「……あら、そう。」


 そう言ってウヴィアは、後ろに控えていた侍女をおいて執行人に近づいていく。


「アラン様!」


 聖女の声がする。


 ウヴィアはそんな事を気にせず、スッと執行人の腰に下がっていた剣を()()()()


「!?」


 王族や民衆たちが驚く中、執行人は固く目をつむっているのみ。


「では、さようなら、皆様。」


 そう声を発するとウヴィアは自らの喉に剣を突き刺す。


「……っっっお嬢様あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」


 紅い花の花弁のような紅が散り、ウヴィアの体から力が抜けた。

 それに、彼女の侍女が絶叫する。


「許さない……。」

 泣き崩れた侍女がそうつぶやき、しばらくすると、涙を拭きながらゆっくりと立ち上がる。


 王たちはウヴィアの行動が信じられないようで、未だに固まっている。


「……失礼いたしますね。」

 侍女はウヴィアに触れ、なにか呪文のようなものを呟く。


 と、そこで、ようやく再起動した王太子が口を開いた。


「何をしている!」


「何をしているのか……?

 少し、見せてあげようかと思いまして。……とりあえず、静かにしておいてください。」


 そう言うと、またウヴィアの方へと向き直る。


「おい、何をしている! 早くその女を取り押さえろ!」


 王太子が慌ててそう叫ぶも、周りの兵士たちも未だに固まっていて何もできていない。


 固まっていない執行人も、それを見守っているだけで何もしない。

 むしろ、待っているかのように見えた。


「…よし。

 それでは、観客の皆様。いい加減、戻ってきてください。」


 それでないと、見逃してしまうじゃありませんか、と続け、唱える。


እመኛለሁ።(願う) እሷን ሁሉ(彼女のすべてを) ለመመለስ(取り戻すことを) ይሟላል(成就するは) የምኞት ክር(願いの糸) ተለውጧል(変えられたしは) ሁሉም ምንጮች(すべての源) ቪዮስ(ヴィオス)


 願いを成就させることのみを願って。


 最後の一言を言い終えたその瞬間、大きく、半透明なスクリーンのようなものが、王たちの前に一枚、民衆の前に一枚、侍女が立っている場所に一枚あらわれた。


「ウヴィア様の一生を投影させていただきます。」

 

 侍女がそう言うと、投影が始まった。



 ―――投影が終わったあと。


 誰もが口を閉ざした。


 幼少期。

 ウヴィアは虐待を受け、過度にやせ細っていた。

 待望の男児でなかったことで、母からは虐待を受けていたが、父は無関心を貫き、もちろん、公爵夫人に逆らえる侍女などおらず、逆に虐待を手伝うような者まで居た。

 食事はもちろん出されず、出されたとしても腐っていたり、残飯のような物しか―――しかも、それもたまにしか出されなかった。

 着ているものも、辞めた侍女が置いていったものを、ウヴィア自身が破いたり、結んだりしてどうにかボロ布をまとっているようなものだった。

 そんな時、王子との縁談の話が来て、ようやくちゃんとした食事が取れるようになっていた。

 幼いながらに、彼女の表情は死んでいた。


 王子との婚約後。

 王妃修行に耐え、更に王子の取り巻きの男たちからの暴行に耐える日々。

 彼女が王子と婚約したのが気に食わない貴族からの嫌がらせも苛烈を極め、たとえ両親に相談したとしても動いては貰えず。……その相談さえも、満足にすることができない有様だった。

 ますます表情が死んでいった。

 

 学園に入り、聖女が現れて。

 王に命じられ、聖女を導く役割を担い、きつい言葉を吐くことしかできないウヴィアは、聖女を慕う生徒からのいじめや、聖女が陰ながら行っていた嫌がらせにより、学園内のウヴィアの表情はもはやピクリとも動かなくなっていた。


 そんなウヴィアも、表情を崩せる場所があった。

 それは、下町。

 人々から見捨てられ、蔑まれる人々―――孤児や、犯罪者などが集う町。

 ウヴィアが密かに改革を進めた下町は、邪な者たちが一掃され、生活水準も上がっていった。

 暖かく自分を迎えてくれる、家族のような者たち。そんな人々を、下町の住人として蔑まれる立場に居させることを、ウヴィアは許せなかった。

 そこでウヴィアは数人の少年少女を外の世界へと出し、経験を積ませていった。


 あるものは商人に。

 あるものは役人に。

 あるものは()()に。

 あるものは()()()に。


 それぞれの道を見つけ、働いていた。


 この部分が流された時、広間に立っていた二人に視線が集まったのは仕方がないことと言えよう。


 そして、断罪のとき。

 ただ一人で。味方もおらず、なにも知らない罪状を突きつけられ、断罪されて。


 ウヴィアの視界は、にやりとはしたなく笑うシィアが見えていた。


 それでも、胸をはって。

 していないことを認める必要はない、と。


 そして、(処刑場)へと繋がった。


 この魔法は嘘偽りを投影することはできない。

 あまりにも有名な童話、『ライアーの嘘』で描かれたことのあるこの魔法を、嘘だと罵ることはできない。

 この魔法の知名度が、それをさせない。


「………。」


 王も、王子も、聖女も、先程まで彼女を、ウヴィアを罵っていた国民さえも。


―――沈黙した。


 その、沈黙を破る一つの声が聞こえた。


「私は。許さない。ウヴィア様が死ぬことになった全てを。」


 侍女は、その瞳に殺意をたぎらせ、そう宣言する。


「……許せる、わけがない。」


 執行人も、ゆっくりと、殺意を載せてそう告げる。


「「覚悟をしてください。」」





―――数年後。


「……終わった。」

「終わりましたよ、ウヴィア様。」


 シヴァ王国の滅亡を一人の女性へと告げる、一組の男女がいた。



勢いで書いた作品です……。

感想などお待ちしておりますm(_ _)m


日間一位、ありがとうございます。(2022.11.11)

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