7-7.おやつの時間の後
尾方 翠が店から去ったところで、谷崎 光は大きな溜息を吐いた。
「スイちゃん、かえっちゃった……」
しょんぼりした顔のまま、詩織は食べかけのプリンをスプーンで突く。詩織の幸せなおやつの時間に水を差した形になってしまい、心が痛んだ。
「しーちゃんの前で喧嘩しちゃってごめんね」
そう言って詩織の頭を撫でると、アヒルのように唇を突き出した。ムスッでもなく、ムッでもない、むぅっとしたと形容することが正しいような、そんな拗ねた顔をしている。
尾方 翠が自分に突っかかってくることは解っていたはずなのに、ついカッとなってしまった。適当に選んだ大学に通ってお気楽に過ごしていることが図星だったからだろうか。
口達者な中学生男子と大人気なく言い争ったことは恥ずかしいと感じる。
それにしても。
「なんでアイツは俺にはあんな態度なんですかね」
先程は嫌味を嫌味で返してしまったが、出会った頃から尾方 翠には睨まれるし憎たらしい態度を取られている。こちらとしてはそんなことをされる覚えはない。
「さぁ? でも可愛いじゃないの。あんな態度が出来るくらいには、甘えてるってことなんだから」
「なんですか、そりゃ」
尾方 翠のことをママは可愛いと言ってのけるが、俺にはそこまで達観して考えられそうになかった。
「ともかく、スイちゃんは来年高校生になったらここでアルバイトをしたいって前から言っているのよ。いずれヒカルちゃんの後輩になるのだから、仲良くして頂戴ね」
こちらに笑顔を向けながら放ったママの言葉に、ぞわりとした。
「えぇー……。それは嫌な予感しかしないですね」
後輩と持つということはワクワクないしドキドキするもの、もしくは多少緊張を伴うものだと思うが、その後輩が尾方 翠ならば話は別だ。先輩と呼ばれる、いや、「谷崎さん」と呼ばれるところすら想像できない。ひたすら気が重い。
来年彼が高校生になるということは、約四ヶ月と少しの期間で尾方 翠との仲をほんの少しでも良好にしておかなければ、互いにWeirdosでの仕事が辛いものになってしまう。それは避けたいと思った。
本来は喧嘩を売られた側なのだから、自分から声を掛けることは不本意なのだが。
「とりあえず、今日大人気ない態度を取ったことは謝っておこうかと思います……」
「それがいいわ。でもヒカルちゃんはスイちゃんの連絡先は知っていたかしら?」
そうママに小首をかしげながら質問をされ、何となく胸ポケットに手を当てた。いつも制服のワイシャツの胸ポケットにスマホを入れている。
「いえ、知らないので次に会ったときに直接謝ります」
俺の言葉に、ママは頷いた。
「スイちゃんとなかなおりしてね……!」
詩織も安心したように笑顔を作った。
その日のアルバイトが終わると、新堂 琉為を警戒してママがWeirdosのある路地から大通りまで送ってくれた。
新堂 琉為が俺に会いに来た日から、早三週間が経とうとしている。
彼のSNSを確認する作業もルーティンと化し、少しずつだが危機感も薄れつつあった。




