7-6.おやつの時間
詩織と並んでプリンを食べていると、
「今日は海鈴がシフトに入ってない日なのにここに来るなんて、珍しいわね」
オッサンが嬉しそうに言った。別にオッサンを喜ばせたいから来た訳ではない。何となくだが、真っ直ぐ家に帰る気がしなかっただけだ。
「……俺って大変そうかな」
「へ?」
オッサンは野太い素っ頓狂な声を上げ、詩織は首を傾げた。
「学校で進路について聞かれたから……。兄さんか俺のどっちかが父親の病院を継がなくちゃいけないから医学部を目指してるって言ったら、夢でも好きでもないことをやらなくちゃいけなくて大変だねって言われたんだ」
うーん、とオッサンは考え込むように腕を組む。
「……スイちゃんは医者以外に何になりたいか、とか、やりたいことを考えたことはないの?」
「ない。医者になることが当たり前だと思ってたし」
何故だかよくわからないが、オッサンの前では余計なことを喋ってしまう。普段学校では言わないような家のことも。
「そうねぇ……。それじゃ大変と言われるかもしれないわね。まずは自分がどうしたいかを考えてみたらどう?」
翠にはオッサンの言わんとしていることが理解できなかった。どうしたいとは何だ。医者になって親の病院を潰さないこと、それ以上に何があるというのだ。
もう一口プリンを口に運んだところで、カランカランとベルが音を立てる。
「あっ、ひかるちゃん……!」
詩織が少しはしゃいだ声を上げた。シフトに入っていたのであろう制服姿の谷崎 光がやって来る。翠が一番会いたくなかった相手だ。
「おはようございますー。何の話をしていたんですか?」
と言いながら近づいて来る。ヘラヘラした態度でいるところを見ると無性に腹が立つ。
「お気楽そうでいいよな、お前は」
苛々した気持ちのままに嫌味をくれてやった。
こんなお気楽そうにしている奴が自分の欲しいものを簡単に手に入れているなんて、不公平だと翠は思う。
少しムッとしている谷崎の顔を見ていると、胸がスッとした。
「ごめんなさいね。スイちゃんは今将来のことで色々考えてるところなのよ」
慌てたようにオッサンがいらないフォローをしている。
「ふん。こんなパヤパヤした奴には、親の病院を継ぐために俺がどれだけ期待されてるかわからないだろうな」
そのオッサンの行為が、更に翠を苛立たせる。
「そりゃあ大変だ。誰かの期待通りに生きていくなんて」
また大変だと言われた。苑田 寧々に言われた時よりもムカつくのは谷崎が嫌いだからだろうか。
「うっせぇよ! お前みたいに能天気な奴に何がわかるんだよ。お前なんて、どうせ何も考えずに適当に選んだ大学に行ってるだけだろ!」
「いやぁ、君は人からの期待が見えるみたいだけどさぁ。期待されてるとか、親の後にを継ぐとか言って、自分の意志は全然言わないじゃん。そんな奴に批判されたくないかな!」
「ちょっとちょっと、喧嘩しないの!!」
オッサンが割って入ってくる。
「ヒカルちゃんは大人気ないこと言わないの。スイちゃんはまだ中学生じゃない。これから色んな出会いがあるんだから、将来のことはゆっくり決めていけばいいのよ」
だからちゃんと考えているだろう、と言い返そうとして踏みとどまった。
「スイちゃん、ひかるちゃん……。なかよくして……」
詩織が眉毛をしゅんと八の字にして、今にも泣き出しそうな悲しそうな顔をしていたからだ。
それでも本当に腹が立つ。
――オッサンはいつまでも俺を子ども扱いしやがって。
残ったプリンを流し込むようにして食べ、翠はWeirdosを後にした。




