7-6.おやつの時間
ポジティブなのか鈍いのか、はたまた何か欠けてしまっているのか。苑田 寧々が変人と言われる所以がここにあると思った。
まぁ、本人が気にしていないなら良いか、なんて考えていると、
「ウチは高校を卒業したら、美術留学でイギリスに行くつもり」
珍しく苑田 寧々の方から話を切り出した。
「尾方先輩は、卒業したらどうする?」
「医学部がある大学に進学したいと思ってるけど」
「えっと、医学……? に興味があるの?」
「別に興味があるってわけじゃ……」
「ふーん。それじゃ、お医者さんに為るのが夢なの?」
「夢ってゆうか……。俺の家が病院を経営してるから、俺か兄さんのどっちかが父親の後を継がなくちゃいけないし、必然って感じだけど」
普段は自分の家のことは余り人に話さない。本当のことなのだが、自慢だと捉えられてしまうことも多いからだ。それでも苑田 寧々には隠さなくても良いかと思えた。
「それって何だか……大変だね」
少しだけ眉をひそめて、精一杯気を使うように彼女は言う。
そんな苑田 寧々の言葉を聞いて、目からウロコとはこのことだと思った。母親の教育方針が面倒臭いとは常々思っているが、家業のために医学部を目指すことが大変だなんて思ったことはなかった。むしろ、自分は他の人よりも恵まれていると感じていたくらいなのに。
「大変なんて思ってないけど……」
「だって……。夢でもなくて、好きでもないことをやらなくちゃいけないんでしょう?」
不思議そうに首を傾げている彼女に、翠は珍しく何も言い返せずに、
「前髪に絵の具、ついてるよ」
とだけ告げた。
苑田 寧々とそんな会話をした日の放課後、翠はWeirdosへ向かった。
思い切り力を込めて重たい扉を開けると、やかましくベルが鳴る。こんな単純な動作だが最近成長痛が酷く節々が痛む。
「あら、スイちゃんじゃない! こんにちは」
Weirdosのオーナーであるオッサンはいつもそうやってニコニコと笑いながら話し掛けてくるので気が抜ける。初めて会った時に彼からママと呼んで欲しいと言われたが、中年男性をママなんて呼べるはずもなく反発してオッサンと呼んでいる。
詩織もすでに小学校から帰宅していたようで、テーブル席でおやつのプリンを食べていた。
「スイちゃんもいかが?」
そう言ってオッサンが手作りしたのであろうプリンを勧めてくるので、とりあえず素直に頷いた。ムキムキのイカツイマッチョな姿からは想像出来ないが、オッサンの作るお菓子は美味しい。
オッサンがプリンをテーブルの上に置く。詩織の隣に座って一口プリンを口に運ぶ。カラメルのほろ苦さと、プリンの優しい甘さが絡み合ってゆるゆると広がっていく。
美味いな、と呟くと、スプーンを持ったままの詩織が嬉しそうにこちらを見て微笑んだ。




