7-3.特別な夏
そして海鈴さんと話をした結果、彼女に期待が書かれた吹き出しが見えなかったのは、海鈴さんもギフトを持っていたからということがわかった。海鈴さんの方は翠が伸びをしている時に見えた手のひらに、何も書いていなかったから自分と同類だと気が付いたそうだ。
その後は海鈴さんにWeirdosを紹介してもらい、オッサンや詩織とも出会った。
オカシイものが見えるのは、自分だけじゃない。それがわかっただけで心強かった。
それだけでも満足であったが、厳しい親の目をかい潜って頻繁にWeirdosに出入りするようになったのは、海鈴さんとの繋がりを絶やさないため。海鈴さんに悪い虫がついていないか確認するためだ。最初はオッサンのことも警戒していたが、海鈴さんが彼の恋愛対象になることはないと知ってからは猫を被ることを止めた。
自分には海鈴さんがいれば幸せだ。だから学校でどう思われたって構わないと思うようになった。
海鈴さんや詩織はギフトが発現してから一年半から二年そこそこだが、翠が初めてそれを認識したのは小学校三年生の時だ。
その能力が中学三年生になるまで消えることなく続いているので、この異能とは約六年間の付き合いになる。
小学校三年生。授業中に消しゴムを落とした女の子と目が合った時だ。
《消しゴムを拾って欲しい》
一番最初に見たのは、そんな些細な期待だった。それが歳を重ねていくうちに、周りの女子の期待はエスカレートしていった。
《こっちを見て欲しい》
《笑って欲しい》
《名前を呼んで欲しい》
《一緒に帰って欲しい》
《遊ぼうと誘って欲しい》
《手を繋いで欲しい》
《他の女の子よりも特別扱いして欲しい》
《他の女子とは仲良くしないで欲しい》
《私だけに優しくして欲しい》
翠に寄せられる期待の数々について海鈴さんが知るところではないのだが、女子とのやり取りが面倒になって顔を隠すことにした。
《女の子を紹介して欲しい》
《一緒にいて自分をカースト上位にいさせて欲しい》
《おいしい思いをさせて欲しい》
《〇〇ちゃんの前で、良いところを見せるようなマネはしないで欲しい》
《情けないところを見せて女子に幻滅されて欲しい》
《弱味を握らせて欲しい》
ついでにこうした男子のやっかみもうざったいので、音を遮断することにした。
最初は翠の変化に戸惑っていた同級生も次第に慣れていき、ついには近づいてくる人はいなくなり、遠巻きで翠を眺めているようになった。
スクールカーストから外れた浮いた存在にはなったが、そのポジションは思った以上に快適で、翠は平和な毎日を手にすることに成功したのである。




