7-3.特別な夏
時間となったのでスマホでテレビを開く。部屋の外に漏れると厄介なので、音声はヘッドフォンで聴く。
ここまで徹底しないと自由にテレビの一つも見れないので、藍兄さんが反発する気持ちもよくわかる。
翠のギフトは映像や写真では発動しないので、他のギフトを持つ人達のようにテレビや映画、動画サイトを観ることに抵抗はない。
海鈴さんのように人の考えが見えるのはキツイだろう。特に詩織のギフトは大ハズレだ。精神的負担が大き過ぎる。特技が見えるというアイツのことはどうだっていい。
イケメン俳優である新堂 琉為と二人で画面に映っているのは気に入らないが、テレビの中で動くゴスロリ姿の海鈴さんは可愛かった。いや、彼女はいつだって綺麗なのだが、翠にとってはあの夏のセーラー服の海鈴さんが鮮烈だった。
海鈴さんとの出会いは去年の夏の日。
中学校から帰宅するために電車に乗っていたのだが、その日は込み上げる吐気に耐えられず、途中下車をして駅のホームに設置してあるベンチに座って休んでた。
気分が悪くなった原因は、異常に重たい期待を寄せてくるクラスメイト達にあった。その頃はまだ前髪で顔を隠すことも、休み時間の度にヘッドフォンをして他人を拒絶することもしていなかった。
見目が好く学年トップの学力を持つこと、陸上部には敵わないものの健脚で運動神経が良いこと。どこから流れたのかはわからないが、家が病院を経営しており裕福であること。
スクールカーストのトップに君臨する翠の周りには、いつも大勢のクラスメイトがその立場にあやかろうと集まって来ていた。
割れては現れる、割れては現れる耳障りな期待に耳を塞ぎたくて、過度な期待を寄せてくる奴らの厚かましさに苛立ちを押し殺す。そんな毎日がストレスとなっていた。
途中下車した駅がたまたま普段利用しない場所だったことと、その時間はホームに人が少なかったことで少し開放的になって、翠は完全に油断をしていた。
ベンチの背もたれに寄っかかり、背中を伸ばしながら大きく伸びをしたとき、ふいに目が合った女子高生が海鈴さんだ。
目が合った瞬間に「ヤバい」と思った。当時の翠は、目が合っただけの女子に《連絡先を教えて欲しい》やら《声をかけて欲しい》なんて期待されることは日常茶飯事だったのだ。
でも、海鈴さんは違った。一度立ち去ったと思いきや、また目の前まで戻ってきて、
「これ、良かったら」
と言いながらペッドボトルの水を差し出した。何の期待も見えない彼女の行動の意味が分からずに何も言えないでいたら、
「顔色が悪いから、具合が悪いのかと思って。余計なお世話だった?」
そう言って恥ずかしそうに、さらりと長い髪を耳にかける仕草をする。焦ったように笑う海鈴さんに、いとも容易くスコンと胸を射抜かれたのだった。




