1-4.ギフト
「ヒカルちゃんは見えるようになったばかりなのね。よくわかったわ。それじゃあ、どこから話しましょうかね」
そう言って、ママは手元のグラスに入ったウーロン茶をグッと飲み干す。
「まず、占い師の『Rin』だけどね。あの子、メモに書いてあったように本名は笠井 海鈴っていうのね。海鈴はヒカルちゃんとは違って、手のひらに相手の思考が書いてあるように見えるんですって。思考ってどんどん流れていくから、蛇みたいにとぐろを巻いて、ぐねぐねしているそうよ」
相手の思考が書いてあるように見える?そんな馬鹿な、なんの話をし始めたのだと思ったが、その考えは掻き消した。
現に俺だって馬鹿みたいな状況なのだ。
そしてママは続ける。
「アタシも、相手からアタシに対する好感度が見えていたのよ。乙女ゲームみたいにゲージが表示されているように見えるの。そりゃあ最初は戸惑ったけど、なんだかんだ上手く活用してたわ」
ふふふ、と楽しそうに笑うママに背筋が冷っとした。
しかし好感度?ゲージ?
「……みんな見えてるものも見え方も違うってことですか?」
「そうよ。アタシはそれらの見える力のことを、便宜上“ギフト”って呼んでいるわ」
「ギフト?」
「えぇ。その方がロマンティックでしょ」
「……はぁ」
気の抜けた返事をする俺に、例え嬉しくなかったとしてもね、と言いながらママがウーロン茶を注ぎ足してくれる。
「そしてこれも理由はわからないけれど、ギフトを持っている人同士だと、何故かギフトが発動しないのよ。だから、ヒカルちゃんは海鈴の顔を見て気がついたし、海鈴はヒカルちゃんの手のひらを見て気がついたということね」
「それじゃ、ママには俺にゲージがなかったから、ギフトがあるってわかったんですか?」
「それは違うわ」
ママはまたウーロン茶を飲み干した。
「アタシがゲージが見えるようになったのは、社会人になるちょっと前くらい。それからずっとゲージが見えていたわ。でも二年前のある日突然、なんの予兆もなく、ぱったりとゲージは見えなくなった。ギフトが使えなくなったのよ。けれど貴方達のような“見える人”からは、ゲージが見えてた頃と変わらずギフトが発動しないままみたい。ま、ヒカルちゃんもアタシのように見えなくなるかはわからないし、個性だと思って上手く付き合っていくしかないわね」
あっさりとママに言われて気が遠くなるような、目の前がぐらぐら揺れるような気がした。こんな気持ち悪い状況がずっと続いて、いつ元に戻れるかもわからないなんて。
言葉が出てこなくて俯いてしまう。握りしめた手に力が入る。
しばらく沈黙が続いたが、突如カランカランとベルが鳴った。驚いてドアの方を見ると、そこには小さな女の子が立っていた。
「……りゅーちゃん、……おきゃくさん…?」
耳をすませていないと聞こえない程のか細い声。うつむき加減な佇まいと丸い眼鏡も相まって、酷く大人しそうな子だった。背負った赤いランドセルがやけに大きく見える。そして何故か首から下げた小さなホワイトボードにまだ拙い文字で『ピーマンのこした』と書いてあった。




