7-1.割れた期待を踏み付けて
Weirdosで緊急招集が行われたその日、尾方 翠は後悔しながら帰路についた。
海鈴さんが望んでいたから、彼女が今まで通り仕事が出来るように加勢をしたつもりだった。
アイツがギフトで新堂 琉為の特技が“殺人”だと知ったことがキッカケで、またその危険人物と再度遭遇したことで、海鈴さんの身が安全とは言い切れなくなった。だから個人的な思いとしては仕事の続行については反対だったのだ。
それでも海鈴さんが仕事を通じて自身のギフトに折合いを付けていたことがわかっていたから、だから仕方なく加勢した。
だが、アイツ。
海鈴さんが仕事の度に谷崎 光と二人で帰るならば。二人きりにさせるくらいならば、無言を貫けば良かった。
「おかえりなさい、翠ちゃん!」
家の玄関を開けると母親がにこにこと笑顔で出迎える。
日本人の父親とドイツ人の母親を持つ所謂ハーフであるため、家では何語で会話をするのかと問われることが多々ある。その答えは日本語だ。
ドイツ人の母親は、実に流暢に日本語を話す。初めて会った人なんかはその言語の堪能さに度肝を抜かれるらしい。
来日したばかりの頃はカタコトで挨拶を交わすことが精一杯だったという母親が言うには、大切なのはストイックに努力をすること。今でこそ専業主婦をしているが、母国ではモデルや銀行員をしていた経験もあるらしく、いつだって努力の結果が自慢だ。
そして自分の子どもには自分以上に努力出来る人間になって欲しいと並々ならぬ思いがあるらしく、尾方家の子ども達は幼少期からガチガチの英才教育を施されている。
「お夕飯が出来てるわよ」
と言われたので、母親と二人で夕食を食べる。開業医として病院を経営する父親はなにかと忙しく、一つ年上の兄はいつも帰宅が遅いので家族で揃って食事を取ることは珍しい。
食事を終えて、
「ご馳走さま。俺は部屋で勉強するから」
そう言って部屋に行こうとする翠を、母親は期待の籠もった目でじっと見ている。
《吹き出し》を見なくても、母親が言いたいことは解っていた。
「あぁそうだ、これ」
中間テストの順位表を渡す。
「まぁ! 今回も学年一位!」
その薄っぺらい紙を見て、小躍りするように喜ぶ母親。もう満足だろう。今度こそ部屋に向かおうとする翠の背中に、母親が声を掛ける。
「翠ちゃん、その前髪はやっぱり切りたくないの? 目が悪くなっちゃうし……」
そんな母親に、少しだけ笑顔を向ける。
「あぁ……、このままでいいよ。勉強に集中したいから、夜食なんて絶対持ってこないでね」
やんわりと拒絶。そして絶対に部屋に入らないように、毎日必ず念押しをする。
硝子にピシッとひびが入って、パリパリと砕け落ちる音がする。聞き慣れた音だ。砕け散ったそれを踏み付けるとじゃりじゃりと音を立てる。




