表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
6.折り紙とダンスを
82/137

6-6.ギムレットには早すぎる夜

「お次は何になさいますか?」


 盛り上がっている二人の空気感を壊さないように慎重に。二人のグラスが空いたタイミングを見計らい、声を掛ける。


「そうだね、私はウイスキーのロックだな」


 ご機嫌な松嶋さんの横で、若い男性はまたメニューとにらめっこを始める。


「俺あんまこーゆう場所来ないんで……。何が良いんですかね。あ、ギムレット? は聞いたことあります」


 その台詞を聞いて、したり顔で松嶋さんは


「そうだなぁ、ギムレットには早すぎるかなぁ」


 と言った。だが、言われた若い男性は首を傾げながら


「それ、どーゆう意味っすか?」


 無常にも言い放つ。松嶋さんは拍子抜けしたようにガクンと体勢を崩した。


「まさか『長いお別れ』を知らないのか!」


「はぁ、知らないっす」


 松嶋さんは少しの間唖然としたように口を開けていたが、首を傾げる若い男性の肩にポンと手を置いた。


「いや、いいんだ。ゆっくり楽しく飲もうや」


 ゆるりと時間が過ぎていく。良い夜だと思った。


 珍しく松嶋さんはお酒を五杯飲んで、いつもより足取り軽く店を後にした。また二人で来店してくれたら嬉しいと思う。


 バイトが終わり、外に出た途端に冷たい空気に包まれて思わず身震いをした。大通りから随分離れたこの場所でも、微かににぎやかな人の声が聞こえてくる。


 浮かれた気分のまま歩き出す俺の背後から、


「谷崎……光君?」


 突然名前を呼ばれて振り返る。そこには闇に溶け込むような黒いパーカーをフードまで被った、マスク姿の男が立っていた。ひと目見ただけで誰なのか理解した。


「な……なんで……」


 そう声を出すことで精一杯な俺を他所に、


「僕のこと、覚えててくれたんだ! 嬉しいなぁ」


 弾むような声を上げて、ゆっくりとマスクを外す。


「な……んで、ここに……」


 もう二度と会わないと思っていた人物。画面越しでしか見るはずのない人物。マスクを外した顔には、一面に咲き誇る今にも零れ落ちそうな花。街灯に照らされて彼の大きな目が一層輝いて見える。


「会いに来ちゃった!!」


 新堂 琉為は屈託のない完璧な笑顔を見せた。


「俺に……ですか……?」


 自分の心臓がバクバクと鼓動し苦しさすら感じる。どっと吹き出した汗を夜風が冷やして、最早寒気なのか寒いのかもわからずに混乱する。嫌でも目に飛びこんでくる“殺人”の文字。殺人犯と対峙しているという現実。


 思わず後ずさりをすると、


「そうだよぉ」


 新堂 琉為も距離を詰めるように、ぐいぐい近づいてくる。余りにもズケズケとパーソナルスペースに入り込んでくるので、逃げるように更に後ずさりをすると、唐突に背中に強く硬い衝撃を感じた。


「痛ッ」


 俺は電信柱にぶつかっていた。


 逃げ場がなくなったところで新堂 琉為が俺の肩を掴み、グッと顔を寄せてくる。


「谷崎 光君。君はいつも僕を見て怯えているね。それは何でだろう?」


 至近距離に微笑みを湛えた整った顔。恋人がキスをする直前のような、そんな距離。顔一面に入墨のような花。“殺人”の文字から目が離せない。口ごもる俺を見ながら、


「君は僕の目ではなくて、この辺を見てるよね?」


 新堂 琉為は自分自身の左頬をトントンと叩くように指さした。その仕草に、目線に、思わず頷いてしまいそうになる。


 笑っているのに、刺すような鋭い眼光だと感じた。その目に見つめられると、自分の全てが見透かされてしまうような迫力があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ