6-5.折り紙とダンスを
同じものを、とママに伝える松嶋さん。今日は何時もより飲むペースが早い。ママがお酒を作っている姿を眺めながら松嶋さんは話を続ける。
「全治二週間と聞いて私は安心したよ。大事にならなくて良かったとね。……でもそうじゃなかった。彼にはプライベートで大切な大会があったんだ。二週間も怪我で動けないことは致命的だそうだ。ギブスした彼は本当に悔しそうな顔をしていた」
優しい口調のまま淡々と話す松嶋さんが、俺には悲しそうに見える。
「朝から晩まで会社の為にと尽くす社員の姿が、いつの間にか当たり前になっていた。だから残業も休日出勤も彼らのヤル気だと判断してしまっていた。そんな多忙な生活の中で、彼は仕事も大切なものも必死で守ろうとしていた。ただの若いもんと思っていた彼の姿が輝いて見えたのさ」
ママがマティーニを差し出す。緑色のオリーブが透明な液体に映えて綺麗だ。いつもはグラスの美しさを楽しむ余裕のある松嶋さんだが、二杯目もすぐに口を付ける。
「これでも小さな会社の社長だからね。ワーク・ライフ・バランスなんて社員には言っているが、私自身が仕事しか見ていなかった。もっと柔軟になるべきだと、彼を見て改めてそう思った」
松嶋さんの胸の内を聞いて、俺は社長も後悔とか反省をするんだな、なんてトンチンカンなことを考えていた。偉い人はいつだってふんぞり返っているものだというイメージも確かにあった。
松嶋さんが俺にこんな話をするということは、この前ラーメン屋で話をしていたサラリーマン達のように相談したり愚痴を言い合ったりする仲間がいない分、孤独なのかもしれない。
「今日も慰めようと思って飲みに誘ってみたがね、やっぱり断られてしまったよ」
俺に言えることはなんだろう。そう考えて目を伏せた瞬間、視界に入ったペーパーナプキンを一枚手に取る。
「社会に出ていない俺には上手いことは言えませんが、松嶋さんの会社のその方の、早い回復を祈っています」
少し不格好だが、ペーパーナプキンで折った鶴をカウンターの上にそっと置いた。祈ると言えばこれだろう。バランスを取れずに傾く鶴を見ると、松嶋さんは苦笑した。
「……君はお世辞にも手先が器用とは言えないね。これじゃ鶴と言うよりカモメだな」
「えぇ、ペーパーナプキンですからこんなもんですよ!」
ムキになって言い返す俺に、松嶋さんは悪戯っ子のようににやりとする。
「……私はこう見えても器用な方でね」
そう言って松嶋さんも一枚ペーパーナプキンを手に取った。紙の角と角を丁寧に合わせて、手際よく折っていく。そうやって完成した鶴は堂々と翼を広げていた。手順は同じなのに、俺の折った鶴と並べると別の種類の鳥みたいだ。
「松嶋さん、折り紙が上手いですね」
そうだろう、と笑う松嶋さんの左頬の萎れた花は、ほんの少しだけ上を見上げた。




