1-3.Bar Weirdos
開いた口が塞がらない状態の俺に男性は、
「なんのご用かしら?」
と、丁寧な口調でにっこり笑った。
あたふたしたまま、ゴスロリ占い師に渡されたメモ用紙を渡す。
「占いの館で占い師に、ママに話を聞いてと言われまして……」
俺からメモ用紙を受け取った男性は、なるほどねぇ、と微笑んだ。立派過ぎる筋肉に面食らったが、どうやら怖い人ではなさそうなので安堵する。
そして、そこに座って、と促されたのでカウンター席に腰を掛けた。
「アタシは橘 龍之助よ。よろしくね。このバーWeirdosのママと、三階にある占いの館のオーナーをしているわ。気軽ママって呼んでね」
そう言うと、パチリとウインクをしてきた。見た目が全然ママらしくないし、気軽には呼びにくいなぁ、と思う。
「俺は谷崎光です。えっと大学一年生です、よろしくお願いします」
「ヒカルちゃんね」
ヒカルちゃんと呼ばれて苦笑いする俺に、ママはウーロン茶を出してくれた。一口飲むとウーロン茶の冷たさで、緊張で強張っていた体が少し解けたように感じる。
一息落ち着いたので、改めてママの顔を見る。
やはり何も書いていない。文字が見えないことがほっとする。昨日までこれが普通だったのにな。
こんな奇天烈な状態について説明をして、果たして信じて貰えるのだろうか。こちらは真剣に困っているのに、頭がおかしいやつと思われたらどうしよう。
ここまできて怖気づく、小心者の自分が嫌になる。言葉に詰まる俺に、
「で、ヒカルちゃんは何が見えちゃったりするわけ?」
カウンター越しにママが突然核心を突いてきたので、目を丸くした。ママはそんな俺を真っ直ぐに見ている。
俺は意を決して、今朝からの状況を説明した。
大学に行く途中ですれ違う人々の左頬に、何らかの文字と水墨画のような花の絵が描いてあることに気が付いたこと。大学の友達の顔にも“話を盛る”と書いてあり、そのことに触れても本人は何のことかわかっていない様子であること。
渋谷駅で唯一顔に何も書いていない女子高生を見つけ、話を聞きたくて後を付けて占いの館までたどり着いたこと。
駅で見つけた女子高生が占い師『Rin』であり、この店のママに話を聞くように言われたこと。
改めて説明をすると夢みたいな話だし、女子高生をストーキングしちゃってるし……。
「こんな話、信じてもらえないですよね……。自分でも何がなんだかって感じなんですけど、でも、本当なんです」
誤魔化そうとへらへら笑いながら言うと、
「信じるも何も、わかるわよ」
ママは至って真面目な顔でそう言った




