6-5.折り紙とダンスを
金曜日になった。
問題のテレビ放送日まで後一週間。ママはまだ詩織に新堂 琉為の特技が“殺人”なのだと伝えるタイミングを計りかねているようだった。
俺も公園で友達と遊ぶ詩織の姿を見てからは、伝えない方が良いのではないかという気持ちが少し大きくなっている。折角前向きになっているのだ。もう会うこともない人物のことで、怖がらせて何になるだろう。テレビは「放送が中止になった」とか、上手く誤魔化してしまえば何とでもなるのではないか。
そう思う反面、しっかりと話をしておくべきとも思う。詩織だっていつまでも子供ではない。遠くない未来にそれが嘘だと分かる日も来るだろう。一体どちらが詩織のためになるだろうか。
そんなことを考えながらお皿を拭いていると、カランカランとベルが音を立てる。二週間連続で松嶋さんがWeirdosにやってきた。誰も連れておらず、やっぱり一人での来店だ。
「いらっしゃいませ」
と声を掛けると、松嶋さんは微笑みながら
「マティーニを頼むよ」
と言ってカウンター席に腰を掛けた。他のお客様を接客中のママに注文を伝えて、松嶋さんへおつまみのナッツとチョコレートを持って行く。
「今日も若いもんにフラれてね」
そう言いながら松嶋さんはナッツを口に運んだ。
「そうだったんですね」
何て声をかけたら良いのだろうと迷いながら相槌を打つ俺に、松嶋さんは話し続ける。
「会社にいる以上、上司に誘われたら大チャンスなんだ。家庭や自分を犠牲にしても付き合ってきたよ。何が何でも気に入られてやるってね。私はずっとそうやってきたんだけどなぁ」
松嶋さんの目の前にママがそっとマティーニを差し出す。
松嶋さんはカクテルを一口飲むと、小さな声で美味いと呟いた。
「……若い人は、会社のためにもっと大切なものを犠牲にする必要があるってことですか?」
俺はそんな変な表情をしていたのだろうか。松嶋さんは俺の顔を見て吹き出した。
「そうじゃない。羨ましいのさ。仕事が全てじゃないと堂々と言えるこの時代がね」
笑いながらそう言ってマティーニをさらにもう一口。いつになく松嶋さんは饒舌だ。
「ウチの新入社員がね、昨日脚に怪我をしてしまってね。大きな怪我じゃないが、全治二週間の足首の捻挫だ。ここのところ疲れていたみたいでね。無理をして出社した結果、会社の階段で踏み外してしまったんだ」
松嶋さんのグラスはいつの間にか空になっていた。




