6-4.女子三人組
ラーメンを食べ終えたが、まだバイトが始まる時間まで余裕がある。大学で使っているルーズリーフがもう少しでなくなるので、予備を買っておくことにした。
渋谷には大きな文房具店があり、店内を見ているだけでも楽しくて時間を忘れてしまう。
ルーズリーフを片手に店内を回っていると、ボールペンのコーナーに辿り着いた。赤や青のボールペンは常備しているが、今は色とりどりのペンが売っている。グレーのボールペンなんてあるのか、と思い試し書きをしていると三人組の女の子達が俺の隣にやってきた。見た目の年齢は笠井さんとそう変わらないので女子高生くらいだろうか。
かわいいー!なんてはしゃいでいる女子達に、なんとなく引け目を感じてそこから立ち去ろうとする。そのうちの一人が友人達の気がそれた瞬間、持っていた売り物のペンを薄ピンクのニットの袖の中にストンと隠したのが見えた。
一瞬の出来事だったが、間違いなく万引きだ。
「ちょっと、君!」
慌てて俺が声を掛けると、まさか見られているとは思っていなかったのだろう、驚いた彼女は勢いよく振り返る。
色素の薄い茶色の真っ直ぐなロングヘアがふわりと舞う。顔には小さな花、特技は“お菓子作り”。潤んだ瞳、気の弱そうな表情。白いロングスカートをキュッと掴む仕草。万引きをするような子には全く見えなくて、こちらが動揺してしまう。
「君、今袖の中に――」
そう言いかけた時、万引きした女の子を庇うようにして友人達が前に出てくる。
「唯愛ぁ、この人知り合いー?」
俺を下から上まで舐めるように睨みながらガンを飛ばす、特技“早打ち”の友人Aは露出が多くミニスカートで、金髪、メイクも濃い。
「ううん、知らない人……だと思う……」
「うっそ、じゃあナンパ?」
万引きをした女の子の返事に大袈裟に驚く特技“ヘアアレンジ”の友人Bは、赤いメッシュが入ったツインテール。左右で合計五つ、さらに軟骨にも開けたピアスが光っている。
「いや、だからナンパじゃなくて! 君が服の中に――」
二人の女子もといギャルに睨まれて、俺はタジタジだ。でもナンパだと勘違されても困るので必死に訴えるが、
「こっわぁ、変態? あっち行こ!」
「唯愛ってば、ふわふわしてっから絡まれるの! マジ気をつけな!」
ギャル二人組は俺を無視して万引きした女の子の肩と腕を掴み立ち去ろうとする。
「ちょっと、話をちゃんと聞いて……」
俺の懸命な説得も虚しく、
「これ以上、唯愛に纏わりつくなら店員呼ぶから!」
ギャルのこの一言で何も言えなくなった。
二人の友人にガードされるように、唯愛と呼ばれている女の子はその場を離れて行く。彼女は一度だけ俺を振り返ったが、すぐに目を逸らした。嵐のように去っていく女子達に、俺の正義感は崩れ落ちた。
それにしても、万引きをした女の子はギャル二人と全く雰囲気が違う。喋り方もおっとりしていて、第一印象は清楚な女の子だ。そんな子も万引きなんてするのか。
目の前の犯罪を止められなかったことにモヤモヤした思いが止まらないが、そろそろWeirdosに向かわなければならない時間のため、俺は店を後にした。
バイト中、俺は久しぶりにグラスを割った。一緒にシフトに入っていた笠井さんは、そんな俺を見て大きな溜息を吐いていた。




