6-1.オープンサンド
無事に占いの館でのロケが終わってから、早二日が経った。
あの日はあんなに新堂 琉為の特技に怯えていたが、もうすっかりいつもの日常だ。日にちが経ってしまえば尾方 翠の言う通り、遠い世界の出来事だった。
証拠があるわけでもなく、どこで何をしているかもわからない人物。一般人の俺達とはもう会うこともないと思ってしまえば気が楽だ。八坂に芸能人に会ったのだと自慢するつもりでいたが、やっぱり心に引っ掛かるものがあって口にするのをやめた。
そして今日、俺は八坂と電車に乗って原宿へ向かっている。
大学終わりの平日の午後だが、電車は座れる場所がないくらいには混雑していた。二人で並んで、吊り革を掴んで立つ。
カフェ巡りにハマっているという八坂が、お気に入りの場所へ連れて行ってくれるらしい。まぁそれは口実で、多分デートの下見相手に選ばれたのだと俺は考えている。
夏休み前に合コンで八坂といい感じになっていた“利き酒”先輩とは結局進展しなかったようで、今は同じサークルの同い年の女の子と意気投合し今度二人で遊びに行くのだと、意気揚々と語っていた。
人が多い場所へ出掛けると色んな人の特技が見えてしまう。今までは入墨みたいで怖いと思うことはあっても、その内容に恐怖することはなかった。
だが新堂 琉為の特技を見てからは、他人の特技を見ることに少しだけ抵抗を持つ自分がいる。だって、すぐ隣にいる他人が“暴力”とか“強盗”が得意な人だったらどうする?そんなの、めちゃくちゃ怖い。
何も知らなければ怖いと思うことなく過ぎていくのに、知ってしまうと記憶に刻まれる。知っているからこそリスクを減らせるという考えもあるが、恐怖は拭えない。
「谷崎、聞いてる?」
「あぁ、うん」
八坂に話し掛けられて咄嗟に頷いた。“話を盛る”ことが特技の彼の左頬には、今日も花が咲き誇っていた。最近少しだけ花が大きくなったように感じる。喋りが上手い八坂は、特技を活かす機会に恵まれてると思う。
話半分で聞いていると、目の前の広告が目に留まった。
「あれ、この子……」
ボディソープの広告らしく、両手にこんもり盛った泡を吹き飛ばしている横顔の女性の写真。金髪のポニーテールがなびいて、アンニュイな表情を浮かべている。その顔が綺麗だと思った。
顔に文字が書いていなかった。それは左頬が写っていない写真だったからだ。
「お前、まさか円を知らないのかよ? 今大人気のインフルエンサーだぞ!」
はっと気づいて右隣にいる八坂を見る。
「なんだよ?」
怪訝そうな目で俺を見る八坂。
「ちょっといいから、場所代わって」
「は? なんで?」
眉を潜める八坂に場所を代わってもらい、彼の右側に立った。
これは新発見だ。人の右側に立てば左頬の文字が気にならない。こんな簡単なことに気が付かなかったなんて!わけがわからないという顔をしている八坂をよそに俺は感動に浸った。
この画期的な発見をバイトの日にママに話してみようか。笠井さんや尾方 翠に伝わったら呆れた顔をされそうだ。
ギフトとの付き合い方に一つ知恵を付けた俺は、原宿のカフェで美味しくコーヒーとオープンサンドを食べた。
オシャレなカフェだろう、と八坂は終始自慢していた。




