5-5.興味
彼女は所謂過激な新堂 琉為のファンであった。
どこから情報を入手したかは知らないが、高頻度でテレビ局での出待ちや撮影現場への押しかけを行っていた。とは言え迷惑をかけてくるようなファンではない。遠目に新堂 琉為をただ見守っている、そんなファンだ。隠し撮りも行っているようだが、決して流出させることはない。
時折姿を見せる彼女に丸山さんは困惑していたが、自分としてはこんなにも新堂 琉為を愛してくれるファンの存在を有り難く思っていた。
その彼女がこの夏の現場、危険な山岳地帯の撮影場所にやってきたのだ。まぁ、SNSでギリギリ分かるかわからないかくらいにフェイクを入れて場所を告知したのは自分だ。それでも本当に来るとは思わなかった。
自分達はガイドも付けて万全の状態で臨んでいたが、彼女は一人でやってきた。凄まじい執念だと感動さえした。彼女は同担拒否というやつらしく、行動は常に一人だ。
そしていつも通り、影に隠れて新堂 琉為の撮影現場を見守っていた。場所が場所だけに、彼女の存在に気が付いているのは自分だけのようだった。
大きなチャンスだと思った。休憩時間になり、集中力を切らさないために一人になりたいと言って現場を離れるのは難しくなかった。勿論危険な場所なので遠く離れる訳にはいかない。
それでも人目が届かないところまで移動することは出来た。そして新堂 琉為の移動に合わせて彼女も後を追ってくる。
携帯のカメラを向けられたところに合わせて振り返る。
「君、いつも応援しに来てくれるよね?」
そう声を掛けると、彼女は大人しく姿を見せた。
「……ごめんなさい。私、どうしてもルイルイの頑張っている姿を近くで見ていたくて」
縮こまって俯いている。そんな彼女の言葉を笑い飛ばした。
「違う違う! 怒ってる訳じゃないんだ。お礼を言いたくて」
「……え?」
「良かったら一緒に写真、撮らない? 今だったら怒られる心配もないし」
そう言って周りに誰もいないことをアピールする。彼女の顔が見る見る生気を取り戻し、大きく見開いた目で俺をキラキラと見つめている。
「折角だしさ、景色が良いところで写真を撮ろうよ。こっち、ちょっと危ないけど綺麗だよ」
彼女を手招いたのは一歩間違えれば転落、転落すればただでは済まない場所だった。それでも晴れ渡る空に、見渡す限り悠然と広がる雄々しく聳え立つ山々。心を動かすような美しい景色だった。
彼女は素直に喜んで付いてきた。
「携帯貸して。僕が撮るよ」
雄大な景色を背に二人で並ぶ。借りた携帯のインカメラで画面に二人が入るように調整する。
「それじゃ撮るよ! 3、2、1」
カメラのシャッターを押す、代わりに彼女の服の後ろを思いっきり引っ張った。笑顔を作っていた彼女の表情がゆっくりと歪んでいく。縋るように伸ばしたその手は空を切り何も掴むことはない。
声を上げる暇もなく彼女は転落していった。
手元に持っていた彼女の携帯は、インカメラからアウトカメラに切り替え、服で指紋を拭った後に彼女が落ちていった方へ投げ捨てた。
その後はなんでもない顔をして現場へ戻ったが、胸は高鳴っていた。自分を一心に愛してくれる存在を、自分の手で殺めた。その興奮は全て演技にぶつけた。
撮影が終わり下山した頃、空を見上げると先程まで晴れていたはずなのに、山頂にはだんだん重たい雲が掛かってきていた。
「山の天気は変わりやすいってね」
雨が降ってくれるのであれば好都合。神は俺に微笑んでいる。
「彼女の名前、聞き忘れたな」
その呟きは誰にも届くことなく消えた。
ベッドの上で、新堂 琉為の笑いは止まらなかった。
バスローブの隙間から、下半身に手を伸ばした。自分のモノが熱く、固くそそり勃っている。バスローブの布を持ち上げてテントを張っていた。
新堂 琉為は興奮していた。
「谷崎、光君」
ぺろりと舌舐めずりをする。自らを扱く手は止まらない。
「知りたい……」
例えば、自分に恐怖を抱く相手を更に追い詰めていく感覚。それはどんな快感だろうか。どんな興奮を自分に与えてくれるのだろうか。
ぎこちない笑顔で写っている彼の写真を眺めながら、新堂 琉為は果てた。
「会いたい……。会いたいなぁ、谷崎 光君……」
これで5章が完結です。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。励みになります。引き続き6章からもどうぞ宜しくお願いいたします!




