5-5.興味
新堂 琉為はもう片手では数えきれない程の人を殺めていた。
キッカケは、初めて殺人犯の役を貰ったこと。デビューしてすぐに恋愛ドラマばかり出演していた自分に、イメージが定着して他の仕事が来づらくなることを懸念した丸山さんが交渉してきてくれた。
自分なりにチャンスを活かそうと様々な作品を見て、本で犯罪者の心理を研究して撮影に挑んだ。それでも、
「琉為君はさぁ、なーんかリアリティがないんだよね」
監督からは散々な評価だった。
そこからは自分を追い込むように、常に想像をするようになった。街を歩いている時は、どうやって人を殺すかを考えた。
あの女性は後ろから刃物を刺して殺す。あのサラリーマンは首に縄をかけて殺す。あの中学生の二人組は車で轢いて殺す。あの親子はバットで殴って殺す。あの老夫婦は頭を掴んで溺れさせて殺す。あの少年は突き落として殺す。あの家族は家に火を放って殺す。首を締めて殺す。鈍器で殴り殺す。滅多刺しにして殺す。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。
「最近の琉為君はいいねぇ! 役が掴めて来たんじゃない?」
段々と監督が褒めてくれるようになった。純粋に嬉しかった。
だが、しばらくしているうちに疑問が湧いてきた。
刃物を刺すときはどこを狙えばいい?首を締めるときはどの位の腕力が必要?車で轢き殺すにはどのくらいのスピードを出せばいい?バットで殴る時はどのくらいの力で振り下ろせばいい?溺れさせるためにはどのくらいの時間がかかる?どのくらいの力で押せば人は倒れる?焼き殺すにはどのくらいガソリンを撒けばいい?
この妄想通りに人は殺せる?
知りたい。
そう願ってしまえば、欲求はどんどんエスカレートしていった。
知りたい。知りたい。
そして、ターゲットを決めた。撮影現場からの帰り道、川辺で一人で生活している年老いたホームレスを見つけた。性格のせいか他のホームレスと喋っているところを見たこともなかった。
時間がない中ではあったが、彼のことを入念に調べ上げた。
タバコの銘柄、集めている新聞紙、街を徘徊して戻ってくる時間。
決行の日は胸が高鳴った。凍てつくような寒い冬の夜中だった。作業は簡単だった。彼の吸っている銘柄のタバコを片手に、川辺へ近づいた。想定通り、一本分けてくれないかとホームレスが声を掛けてくるがすぐには渡さない。会話をしながら焦らして焦らして、水深の深いエリアまで来たところで川に突き落とした。何枚も重ねた薄い服が水を吸ってなかなか上がって来られない。それでもなんとか這い上がろうと足掻く彼の邪魔をしながらその様子を見ていた。
氷のような冷たさと川の流れに体力を奪われ、彼が命を落とすには長い時間はかからなかった。遅い時間であったことと、冬場で近くの住民は窓を締め切っていたこともあり、誰にも気づかれることなくミッションは成功した。
後日ホームレスの水死体があがり、それは事故死であると発表された。
「琉為君、最高だよ! これ以上ないくらい素晴らしい演技だよ!!」
興奮で胸が震えた。これほどの達成感を経験したことはなかった。あのホームレスは自分の糧になってくれたのだ。それから何度か同じような手を使って、ホームレスを川に突き落として溺死させた。比例するようにどんどん演技の評価は上がっていった。
だが、同じようなホームレスの水死体があがっているため調査に乗り出すと警察が発表した。
この手はもう使えない。新しい何かを手に入れなければ。
そう思っていたところに、彼女が現れた。




