5-4.通り過ぎの悪夢
何度か取り直しや追加の撮影があったが、ロケは順調に終了した。これで撤収というところで、マネージャーの丸山さんから提案があった。
「良かったら今日の記念に新堂 琉為と写真を撮りませんか?」
その申し出に、ママは飛び上がって喜ぶ。
「嬉しいわぁ、ありがとうございます!」
笠井さんも瞳を輝かせているが、俺は気が重かった。そこへ衣装から着替えを終えた新堂 琉為がやってくる。
「今日はありがとうございました!」
その笑顔にママはメロメロだ。笠井さんはそんなママを見て苦笑いをした。
「新堂さん、皆さんと写真を撮りましょう」
丸山さんの言葉に新堂 琉為は笑顔で
「ぜひ、撮りましょう!」
と答えた。俺にしか見えない顔の花が大きく咲き誇っている。
逃げ出したい気持ちを押し殺して笑顔を作る。写真を何枚か撮ったところで新堂 琉為と丸山さん、テレビ局スタッフ一行は退散して行った。
恐怖から開放されると、疲れがどっと押し寄せてくる。気が抜けたらしく、その場に座り込んでしまった。
「ヒカルちゃん、大丈夫? さっきから様子が変よ」
「そんなに緊張したわけ?」
心配そうなママと、怪訝な顔をしている笠井さん。俺は意を決して、ギフトで見た新堂 琉為の顔に書いてある文字のことを二人に話した。
「あり得ない! だってそんなこと全然考えてなかった……! 仕事のこと、夜ご飯のことばっかり……!」
笠井さんはそう言って絶句した。ママも流石に言葉を失っている。
「本当なんだ……! あんな特技を活かして生きている人、見たことない」
頭を抱えている俺の肩に手を置き、絞り出すようにママが呟いた。
「ギフトで見たならまず間違いわね……。そんな人だったなんて……」
誰も何も言葉を口に出来なかった。どのくらいそうしていただろう。沈黙が続いた後、突如扉が勢いよく開いてベルがカランカランと大きな音を立てる。
みんなビクッと肩を震わせて一斉に扉の方を見る。
「なんだよ、揃ってお通夜みたいな顔して……」
そこには学生服姿の尾方 翠がそこにいた。ほっとして胸を撫で下ろす。
狐につままれたように首を傾げている尾方 翠にも、ママがことの顛末を説明した。
「こうゆうのって、警察に届けるべきですかね……?」
俺の言葉に尾方 翠が突っかかってくる。
「警察に届けるって言っても、証拠も何もないだろ。ギフトのことなんて誰も信じちゃくれないだろうし、イタズラと思われるだけ。無駄無駄」
「でも……」
俺はあの顔に咲き乱れた花を忘れられなかった。
「馬鹿馬鹿しい。それを知ったからってなんだよ。相手は一流の芸能人。こんな一般人を相手にするはずないだろ?」
脚を組みながら椅子に腰掛け、ふてぶてしく尾方 翠は言い放つ。
「第一、特技が“殺人”だって知られたこと、新堂 琉為がわかるわけがないんだから」
その台詞で俺は押し黙った。説得力がある言葉を返され、納得せざるを得なかった。ママも大きく息を吐くと、
「そうね。スイちゃんの言う通り相手は芸能人。アタシ達と関わることなんて、もうないでしょうね。犯罪者と知っていながら何もしないのは心苦しいけれど、どこで何をしてるかわからない相手の尻尾を捕まえることは難しいわ」
と言って肩をすくめた。
ママが言うように、新堂 琉為はただでさえ会うことの難しいプライベートをガチガチに秘匿された芸能人だ。だが犯罪者を見逃すことしか出来ないのかと思うと心が痛い。
「ただ、問題はしーちゃんだわ……」
ママは困惑した表情を浮かべながら溜息を吐く。
「しーちゃんは普段はアニメしか観ないけど、今回の海鈴のテレビ出演をすごく楽しみにしているの。ギフトで新堂 琉為の秘密を知ってしまったら怖がるでしょうね……」
「そんな……やっと友達も出来て人と関われるようになってきたのに……」
ママの言葉に笠井さんが泣きそうな声を上げる。
「アタシもすぐには話せないわね……。放送前には伝えなくちゃいけないけど、タイミングは考えてみるわ……」
悲しそうに笑うママに、俺達は声を掛けることが出来なかった。




