5-3.吐き気
「差し入れを持ってきてくださったんですね。 うわぁ、すっごい美味しそう! ありがとうございます!」
目を細め、人懐っこい笑顔を向ける新堂 琉為に、俺は恐怖が止まらなかった。
ギフトが発現してから数ヶ月、顔全体にこんな大きな花を咲かせている人を見るのは初めてだった。
「こ、これ、ここに置いておきます! 失礼します!」
持っていたお盆をテーブルの上に置き、一礼をして早々に部屋から飛び出る。新堂 琉為の顔はもう見ていられなかった。
Weirdosの店内に駆け戻ると、
「ヒカルちゃん、おかえりなさい」
笑顔のママを無視して店奥のトイレに直行、体の奥から胃液が上がってきて、ほとんど消化された状態の朝食を吐いた。喉が焼け付くようにヒリヒリする。胃の中が空っぽになっても、震えは止まらなかった。
あり得ない、あんなの、あり得ない。
頭の中でそれだけがぐるぐると回る。今までだって特技を活かして生きているであろう人は大勢見てきたが、それでも顔全体に花を咲かせている人はいなかった。しかも文字は“殺人”だ。
何人殺したらああなるんだ?
何で飄々とテレビに映って生きていられる?
何であんな純粋な笑顔でいられる?
全く理解が出来ない。頭が追いつかない。
ギフトがなければ絶対に知らなかったであろう新堂 琉為の裏の顔に、俺は初めてギフトなんかなければ良かったと思った。
「ヒカルちゃん? 大丈夫?」
トイレに籠もったままなかなか出て来ない俺を心配したママが声を掛けてくる。
どうしよう、この事実をママに話してしまおうか?撮影はまだ終わっていない。テレビ局のスタッフがいるとは言え、笠井さんが特技殺人の新堂 琉為と一緒なんて危なすぎる。こういう場合はとりあえず警察か?
まだ若干の気持ち悪さは残っていたが、笠井さんを守らなければという思いに駆り立てられ勢い良くトイレから飛び出た。
そこには心配そうにしているママと、丸山さんがそこに立っていた。
「体調が悪そうですね。先程の様子が変だったので心配で……」
そう言って丸山さんが俺の顔を覗き込む。
ふと頭を過る。
新堂 琉為のマネージャーは、彼の特技を知っているのだろうか?もし知っていて、見て見ぬフリをしているなんてことがあったら?
背筋がひやりとする。この場では、誰にも言えない。
「ご心配おかけしてすみません! 緊張し過ぎてお腹にきちゃって!」
努めて明るくおどけてみせる俺に、ママは
「もう、やだわぁ。ビックリさせないでよねぇ!」
と言って笑った。




