5-3.吐き気
Weirdosの店内でママと雑談をしていると、カランカランと扉のベルが鳴り、ぐったりとした様子の笠井さんが戻ってきた。
スケジュールより少し早いが、休憩時間になったらしい。
「緊張していつもの十倍は疲れたー!!」
そう言うなり椅子に座り込み、机にべったりと伏した。
笠井さんに続いてテレビ局のスタッフさん達も数人戻って来たが、映像のチェックをしたり音声のチェックをしたりと忙しそうだ。
「お疲れ様ね。飲み物どうぞ」
ママがジュースを手渡すと、笠井さんは喉を鳴らして一気に飲み干した。
「ぷっはぁ〜! 生き返ったぁ! ありがとママ」
そう言って笠井さんが口元を拭う。その豪快な飲みっぷりにテレビ局の方々も自然と目線を笠井さんに移している。
ママはその好機を見逃さずニッコリと微笑んで、
「皆さんも良かったらゼリーとジュース、召し上がってください」
と冷えたジュースとゼリーが乗ったトレーを差し出した。
笠井さんが美味しそうに一気飲みをした姿の効果も相まって、スタッフの方々が次から次へとジュースとゼリーに手を伸ばす。
「良かったら今度はプライベートでお店に飲みに来てくださいね!」
占いの館だけではなくWeirdosのアピールも欠かさないとは、流石ママである。そして、
「ヒカルちゃんはこれを新堂さんと丸山さんに持って行って頂戴」
ジュースとゼリーが二つずつ乗ったお盆を渡しながら、俺にウインクをした。
俺はお盆を抱えながらスタッフルームもとい新堂 琉為の控室に向かう。こんな形で芸能人と対面する日が来るなんて想像もしていなかった。
緊張しながら扉をノックする。
「うちの店から差し入れを持ってきたのですが……」
と言うと、丸山さんは扉を開け、
「お気遣いありがとうございます! 宜しければこちらへどうぞ」
そう言って部屋の中へ招き入れてくれる。いつものスタッフルームなのに、別の空間みたいだ。
こちらのやり取りには気が付かなかったようで、部屋に入ると新堂 琉為は後ろを向いていた。立ちながら手元の資料を見てブツブツと呟き、台本読みをしているようだった。
後ろ姿だけでも頭が小さくて足が長くて、スタイルが良いことが分かる。
「はじめまして、あの、良かったら差し入れです!」
噛みまくる俺の言葉に、驚いたように新堂 琉為が振り返る。
新堂 琉為の顔を見た瞬間、俺は声にならない悲鳴を上げた。
咲き乱れる菊のような大輪の花は左頬には収まらず、顔全体を覆っていた。それでも飽き足らずに首元にまで浸食し、溢れる寸前までその花弁を広げている。
そしてその上には黒々と太く、ひと際存在感を放つ文字。
新堂 琉為の顔には間違いなく
“殺人”
そう書いてあった。




