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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
4.思ったことは手のひらの上
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4-10.電話

 俺がWeirdosの開店準備のために出勤すると、もう笠井さんが来ていて既に拭き掃除を始めていた。笠井さんとシフトが被るのは、彼女を家まで送っていった日以来だ。


「おはよう、笠井さん」


「……おはよ」


 笠井さんは小さな声で返事をすると、机を拭く手のスピードをアップさせる。今日も安定の塩対応だ。


「〜〜っ、だから、それはこの前も話した通りまだ無理なの! いい加減にしなさいよ! とにかくまた連絡するから!」


 カウンターの奥で携帯で電話をしているママは、珍しく声を荒らげていた。そして電話が終わるな否や大きな溜息をついている。


「何か揉め事ですか?」


 そう尋ねる俺にママは、


「何でもないのよ。大きな声を出しちゃってごめんなさいね」


 なんて言うものだからそれ以上は何も聞けなかった。そして表情をパッと明るくし、俺に携帯の画面を見せてくる。


「それよりも見て頂戴、この写真!」


 そこには小学校の校門前でスーツをバリバリに着こなしたママの姿と、はにかんで笑う詩織が写っていた。


 いつも派手な女性物の服を着ているママからは想像出来ない程ビシッと決まっていて、まるでエリート会社員の出で立ちだ。対する詩織はいつも通りの雰囲気である。文字までは流石に見えないが、何やら作文用紙を広げているようだ。


「なんの写真ですか? 入学式の時の写真ではないですよね?」


「ふふっ、今日はね、しーちゃんの授業参観に行ってきたのよ。子どもたちが順番に作文を読んでね。しーちゃんの番の時なんか、アタシ感動して泣きそうになっちゃったわ」


 確かに笑顔で写っているママの表情をよく見ると、目元が少し潤んでいるように見える。


「へぇー! 授業参観かぁ、懐かしい。良い写真ですね」


 写真を眺めている俺の横から笠井さんも画面を覗きに来たので、見やすいように少し画面を傾けた。


「あ、この四葉のピン……」


 笠井さんが詩織の前髪に留めてあるアクセサリーに気が付いて呟く。


「あぁ、それは海鈴がしーちゃんの誕生日プレゼントにくれたやつよ。毎日学校に付けて行ってるわ。スイちゃんのくれたハンカチも、ヒカルちゃんからの色鉛筆も大切にしてるわよ」


 そのママの言葉に、笠井さんは嬉しそうに目を細めた。


「良かったね、笠井さん」


 俺がそう言うと笠井さんは素直に頷いた。そんなほっこりとした時間を壊すように、


 トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル


 突如、店の電話が鳴り響く。


「あぁもう、電話が多い日ね」


 文句を言いつつもママが電話に出てくれたので、俺達も仕事に戻った。しばらく電話をしていたママが、


「えぇ!? ウチにですか!?」


 素っ頓狂な声を上げたので、驚いて俺も笠井さんも手が止まる。


「はい、えぇ……。少しお待ちくださいね」


 そう言ってママは保留ボタンを押した。陽気な音楽の保留音が電話から流れている。


「海鈴……、占い師『Rin』にテレビのロケの依頼が来たわ。新しいドラマの宣伝をするために、番組の特番で俳優の新堂 琉為に占いをして欲しいって……」


 驚きを隠せない真ん丸な目をしながらママが言った。その言葉を聞いて笠井さんも声を上げる。


「えぇっ、私に!?」


「どうする……? 海鈴が嫌なら断るわよ?」


 そう言いつつもママの声は上擦っていた。よっぽど気が動転しているのだろう。笠井さんは少し考えてから、


「やる。私、やってみる」


 そう言った。笠井さんの言葉にママは強く頷き、電話の保留を解除する。


「そのお話、お受けします」


 そして詳しい打ち合わせを進めることになった。


 俺はルイルイのファンだと言っていた望美さんのことを思い出していた。望美さんが生きていたら、俺のバイト先にルイルイが来るって自慢の連絡をしたのに。何で死んじゃったんだよ、馬鹿。


 興奮しているママと笠井さんを見ながら、胸が痛んだ。


 この選択を後悔することになるなんて、この時の俺達は知る由もなかった。

これで4章が完結です。ここまで読んでくださり、ありがとうございます!楽しんでいただけたなら幸いです。まだ続きますので、どうぞお付き合いください。

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