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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
4.思ったことは手のひらの上
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4-8.文化祭二日目

 午後にはアイスは完売し、海鈴のクラスは早々に店仕舞いをすることとなった。


 準備には時間がかかるが片付けは呆気ないものである。剥がれかけの装飾を剥がし、教室を掃き掃除して机を元の場所に戻す。


 そうしているうちに後夜祭の時間がやってくる。


「私は後夜祭に出ないし、ゴミは出しておくよ」


 そう言ってクラスメイトを送り出す。


 段ボールと燃えるゴミを二回に分けてゴミ捨て場に運び教室に戻る頃には、夕陽が窓から差し込んで校内を赤く染めていた。


 後夜祭で盛り上がる生徒たちの声が小さく聞こえ、対照的に校内は静かだった。教室に鞄が置いてあるので、それを持ったらすぐに海鈴も退散する予定だ。


 夕陽に照らされた校舎に見とれながら教室に一歩踏み込み、海鈴は目を丸くした。


「――今藤さん?」


 そこには今藤 紗綾が教室の窓から一人、外を眺めながら立っていた。彼女の影が色濃く伸びている。


 ゆっくりと近藤 紗綾が振り返った。逆光で表情はわからないが、目元だけがキラキラと光っていた。


「みすずんの言う通りだった……」


「え?」


「三好先輩と別れた! 本当は付き合ってる人がいたんだって。先輩より二つ年上の人。部活の先輩達は知ってたみたい。私は接点がなかったから全然知らなかったんだぁ」


 今藤 紗綾はヘラヘラと笑った。


「みすずんに彼氏が出来たって報告した後にね、三好先輩に言われたの。部活のみんなには気を使わせたくないから、付き合ってることは秘密にしようって」


 海鈴は頭を鈍器で殴られたような感覚に陥った。三好先輩は真面目に付き合う気がないと知っていたのだ。知っていながら自分には関係ないことだと躊躇したせいで、最悪な形で彼女を傷つけた。


「私、浮気相手ってゆうか、ただの遊び相手? だったみたい。だから秘密だったんだって……。彼女さんがいきなり来なければ全く気が付かなかった。笑っちゃうでしょ?」


 三好先輩も詰めが甘いよねぇ、と言いながら髪の毛の先をくるくると指で弄ぶ。


「……そんなの、笑えるわけない」


 何てことないかのように饒舌に話す今藤 紗綾に、海鈴は何を返せば良いのかわからなかった。それでも、ふつふつと三好先輩に対する怒りが湧いてくる。


 ずっと離れたいと思っていた今藤 紗綾のことなのに、どうして自分のことのように腹が立つのだろう。


「三好先輩のことはすっごい悔しいし、悲しいけど……。それよりも……忠告してくれたみすずんに、私、酷いこと言った。本当にごめんなさい」


 そう言って今藤 紗綾は頭を下げた。


――何で今藤さんが謝るの? 酷い態度を取っていたのは私の方なのに。


 海鈴の頭の中はぐちゃぐちゃだった。


「虫がいいことだってわかってる。だけど、私ちゃんとみすずんと仲良くなりたい。駄目かなぁ……?」


 頭を上げて海鈴を真っ直ぐ見つめる今藤 紗綾の目から止めどなく涙が伝う。


 本当はわかっていた。今藤紗綾はずっと本音でぶつかってきてくれていた。逃げていたのは私。人の本音が怖いくせに一人で大丈夫だと強がっていた、卑怯な私だ。


「なんで……? 私はずっと嫌な態度を取り続けてたのに、どうして私なんかに……」


 その問いに、今藤 紗綾は即答する。


「だって、みすずんはカッコイイから。誰かの顔色を伺ったりしないで、堂々としてて。そんな姿に憧れてたの」


 予想外の回答に狼狽えている海鈴に、


「今はちょっと可愛い」


 そう言って今藤 紗綾はくすくす声を上げて笑った。


「……憧れてたのは、私のほう」


 単純で素直で明るくて、いつだって真っ直ぐぶつかってきてくれた。


――本当は、あなたみたいになりたかった。


 海鈴は今藤 紗綾をそっと抱きしめた。

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