4-4.嫌な予感
夏休みが終わるとすぐに文化祭の準備が始まる。海鈴のクラスではアイスを販売することになっていた。
部活動の方でも出し物を行うクラスメイトが多くいるため、海鈴のような希少な帰宅部の生徒はここぞとばかりに仕事を振られている。
大勢の人が集まる文化祭なんて、ギフトを持つ海鈴には憂鬱でしかないが、平穏な学校生活のためにも協力せざるを得なかった。
放課後、海鈴は一人で教室の後ろに陣取り、ビニールシートを引いた床に座り込んで看板にペンキで色を塗っていた。クラスの出し物に注力する他の帰宅部の面々は、買い出しに行ったり備品を取りに行ったりと散り散りになって作業をこなしている。むしろ看板くらい一人で塗れるから大丈夫だと、海鈴は他の生徒を快く送り出していた。
文化祭の準備よりも困るのは、文化祭当日の自由時間だ。
極限まで販売員としての仕事を入れてもらっていたが、一人だけ自由時間なしというわけにもいかない。人の多い祭りの中で一人きりで過ごすのはやはり心細い。去年はこっそり屋上に忍び込んで時間が過ぎるのを待っていたっけ。
今年は、弟のように可愛がっている翠から文化祭に遊びに来たいと言われているが、ぼっちでいる姿を見られるのが何となく恥ずかしくて、絶対に来ないで欲しいと伝えていた。
翠は意外と頑固なところあるからな。もしも来ちゃったらどうしよう。
そんなことを考えながらペンキを塗り進めていると、突如教室のドアが勢いよく開いた。
「みすずん、みすずんっ! 聞いて! 大変なのっ」
そういって今藤 紗綾が飛びついてくる。
「危なっ! 今藤さん、ペンキが付くからっ!」
今藤 紗綾は赤らめた顔で海鈴にしがみつく。ジャージに身を包む彼女は、バスケットボール部での出し物の準備に当たっていたはずだ。突然の来訪に困惑していると、今藤 紗綾はキョロキョロとあたりを見渡して他に人がいないことを確認し、
「私っ、彼氏が出来たっ!」
小さな声で、弾むように海鈴に耳打ちをした。
「えっ……あぁ、そうなの。良かったね」
そんなこと、と思い気が抜けた返事をする海鈴に、今藤 紗綾は嬉しそうに抱きついている。
今藤 紗綾は男子バスケットボール部の三好先輩に一年前から片思いをしていて、思い切って文化祭の自由時間に一緒に校内を回って欲しいと誘ったところ、トントン拍子に話が進み付き合うことになったそうだ。それがついさっきの出来事で、海鈴のもとまで飛んできたと言う。
そんな恋バナに付き合っていると、
「おい、紗綾ぁ。仕事サボるなよ」
そう言って現れたのは、今藤 紗綾を追って養生テープやガムテープ等でパンパンに膨れたビニール袋を下げた男の先輩。そして海鈴の方を見て微笑む。
「紗綾の友達?」
この場合、なんて返事をしたら良いのだろう。
「笠井 海鈴です」
とりあえず、簡単な自己紹介だけに留めておく。
「俺は三年の三好。二年生の教室にいきなり来てごめんね」
名前を聞いて、あぁ、この人かぁ、と思った。着崩した制服が少しチャラいけど、身長が高くて物腰の柔らかい優しそうな先輩。
「ほら、紗綾。早く行くぞっ」
三好先輩は海鈴に抱きついて座り込んでいる今藤 紗綾に手を差し出した。
その手のひらに書いてある文字をつい見てしまい、眼を見張る。
【早速友達に報告とか、まじ口軽い。めんど】
その文字を見た瞬間、嫌な予感がした。




