3-8.幸せな誕生日会
それからみんなでバースデーソングを歌い、生クリームの上にたっぷりとブドウが乗ったバースデーケーキに立てた、七本の蝋燭の火を詩織が吹き消した。
その後にオレンジジュースで乾杯をして、ご馳走を食べた。ママの作った唐揚げはカリッとジュワッとしていて、ラザニアもチーズがとろとろで。あまりにもみんなが美味しいと言うものだから、
「お店のメニューに加えようかしら?」
なんてママが呟いた。もし賄いとして食べることが出来るのであれば、ぜひ前向きに検討してもらいたいと思う。
一通り食事が済んだところで、
「しーちゃん、はいっ! 誕生日プレゼント!」
海鈴が薄ピンクのリボンが掛かった箱を差し出した。俺と尾方翠も海鈴に倣ってプレゼントを渡す。
「うわぁ……! しおりにくれるの……? ありがとう! みてもいい……?」
詩織は嬉しそうにそう言うと、丁寧にプレゼントの包装を剥がしていった。
海鈴からのプレゼントは、四葉のクローバーが付いたヘアゴムとピンのセットだった。尾方翠からはネコのキャラクターのハンカチとマグカップ。俺はぬり絵と色鉛筆だ。ママからはお出掛け用のポシェットを貰ったらしい。
詩織はみんなから貰ったプレゼントを大切そうに抱きしめる。それから、何か決意したかのようにポツリポツリと喋りだした。
「……あのね、しおりね……。にがっきになったら、きょうしつに行くの、がんばってみようと……おもうの……」
毎日行けるかわからないけど、と続ける詩織は真剣な目をしながらもどこか不安気だった。
「しーちゃん偉い! でも毎日教室に行けなくたって、しーちゃんには私達がいるんだからね!」
笠井さんはそう言って詩織のほっぺたを突いた。
「そうよ、チャレンジしてみようと思ったその勇気が大切なんだから」
ママはそう言いながら泣きそうな笑顔を浮かべている。前髪で表情が見えない尾方翠も、柔和な雰囲気を醸し出していた。数日前には保健室で大泣きしていた詩織が前向きな宣言をしたことに、俺だって胸を打たれるような思いだ。
「それとね、……大きくなったらね、しおりは……ひかるちゃんとけっこんする!」
いきなりの爆弾発言に、俺はオレンジジュースを吹き出し盛大にむせた。ゴホゴホ咳き込む俺を見て、詩織はふにゃっと頬を緩めて恥ずかしそうな笑顔を見せる。
「なッ!? えぇ!?」
驚きが隠せない俺を、鬼の形相で笠井さんが睨みつけてくる。
「……谷崎、お前しーちゃんに何した?」
ドスの利いた声でいつもの数倍怖い。
「いくらモテないからって、詩織を誑かすとか最低……。引くわー……。幼女に手を出すのはさすがに犯罪……」
尾方翠は汚いものを見てしまったかのように心底軽蔑した目で呟いた。
「なっ、何もしてないし、誑かしてもないよ!!」
焦って立ち上がる俺の腕に、
「……ひかるちゃんを、いじめたら……だめ」
そう言って詩織がぎゅっとしがみついた。
ママは一言も発さずに笑顔でじっとこちらを見ている。蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだと思った。
そんなこともあったが、詩織の誕生日パーティーは楽しい時間だった。
あまりにも楽しい時間だったから、鞄の中に入れたままのスマホに八坂から何件ものメッセージが届いていたことに気が付いたのは、帰宅した後だった。
『谷崎、ニュース見たか?』
『この間の合コンで会った千草望美さんが、亡くなったって』
『登山中に滑落したって……』
八坂からのメッセージを見て、慌てて久しぶりにテレビを付けた。
この日、望美さんが亡くなったというニュースが流れた。
同行者もなくたった一人で山に入り滑落、捜索願いが出され見つかった頃には息を引き取った後だったそうだ。
付き合っていた訳ではない。ただ一回会って、数回メッセージのやり取りをしただけだ。それでも俺は呆然としてしまい、心配した八坂から何度も着信があったが、電話に出ることは出来なかった。
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第三章はここで終わり、次から第四章へ突入します。
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