3-7.砦が壊れた日
次の日、詩織はいつも通り保健室に登校した。仕切りで区切ったスペースで一人で休み時間を過ごしていると、仕切り越しから声を掛けられた。
「加納さん、こんにちは! ……あけてもいい?」
詩織が恐る恐る顔を出すと、そこには昨日仕切りをこじ開けて押し入ってきたクラスメイトのうちの一人、間鍋 香凜がもじもじしながら立っていた。
胸元には『いもうと、かわいくない』と書いてあるボードがぶら下がっている。詩織が戸惑っていると、間鍋 香凜は勢いよくぺこんと頭を下げた。
「加納さん、きのうはびっくりさせちゃってごめんなさい……。今日はくるしくない?」
自分達が仕切りの内側に強引に押し入ったせいで詩織が過呼吸になってしまったことを、謝罪に来てくれたのだ。
「うん、だいじょうぶ。……しおりこそ、きのうはきてくれたのにごめんなさい」
詩織がそう言うと、彼女は思い切った様子で
「わたし、加納さんとおともだちになりたいの!」
と叫んだ。彼女の声で賑やかだった保健室が一瞬にして静まり返る。
「しおりと……?」
そんな言葉をかけてもらえるなんて予想もしていなかった詩織は、目を丸くした。間鍋 香凜は大きく頷き、ツインテールが肩の上で勢いよく跳ねた。
――かってにひみつがみえちゃうのに、しおりは、おともだちになっていいの……?
今までの詩織だったら、確実に殻に閉じこもっていた。仕切りの内側に隠れていた。でも「しーちゃんのことを大切に思ってる気持ちを、曲解しちゃ駄目だ」その言葉が頭の中でリフレインする。怖い気持ちは拭いきれない。
――でも、だれかにとって……やさしいギフトになるかもしれないんだ。
詩織はぎゅっと手を握った。
「ありがとう……。しおりと……おともだちになってください」
その言葉を聞くなり間鍋 香凜は顔を綻ばせてやったーと万歳し、ぴょんぴょん飛び跳ねた。詩織はそんなに喜んでくれるのかと驚いたし、何より嬉しかった。
「わたし、みんなから香凜ってよばれてるの!」
「しおりは、しーちゃんってよばれてるよ」
「……かりんちゃん」
「しーちゃん!」
二人は手を取って笑いあう。
両親と離れたあの日から感じていた胸の奥にある空洞が、温かい何かで満たされていくことに気がついた。




