3-6.半分こにしたアイス
学校から離れても俺と詩織は無言だった。とぼとぼと小さな歩幅で歩く詩織に合わせ、俺もゆっくりゆっくりと歩いた。降り注ぐ日差しとアスファルトの照り返しで、蒸し焼きになるような暑さだ。
「寄り道しない? 一緒にアイス食べようよ」
俺は我慢出来ずにコンビニを指さした。
詩織にどれがいいか聞くと、少し悩んでからプラスチックの容器に入った、二人で半分こにして食べられるアイスのチョコレート味を選んだ。
それから、セミがけたたましく鳴いている近くの公園で、ブランコに座りながらアイスを食べた。
「寄り道してアイスって最高だねぇ」
詩織は終始無言でアイスを啜っていたが、ふいに
「あ、ねこ……」
と目線を野良猫に移した。草陰からひょこっと顔を出した野良猫は、日陰を求めていたのかすぐに走り去ってしまった。
「猫、好き?」
そう聞くと、詩織は一瞬頷き、すぐに首を横に振った。
「……俺、しーちゃんの昔の話を聞いたんだ」
天を仰ぐとブランコがギィ、と鈍い音を立てた。詩織は驚いた顔をしてすぐに俯いた。
保健室でなんで詩織が大泣きしたかはわからない。彼女の為になんて声をかければいいのか言葉がまとまらない。だけど、本音を伝えようと思った。
「俺はギフトが発現してからまだ間もないけどさ、こうも他人のことが鮮明に見えると嫌になるよな」
詩織は小さく頷いた。
「慣れるのが一番なんだろうけど、そう割り切るのも簡単じゃないよね。たくさん人がいるところだと、やっぱり疲れるってゆうかさ……。だから、ギフトが発動しない俺達の前とか、Weirdosにいる時だけでも、もっと気楽にしていいと思うんだけど……。どうかな?」
俺の記憶の中の詩織は、いつもホワイトボードを握りしめて気を張っている。俯き加減で自信なさげにしている。過去を乗り越えるのは辛いししんどい。それでも詩織はもっと自由になっていい。大声で笑っていいし、我儘だって言って欲しい。そう思うのだ。
「……りゅーちゃんがやさしいのは……しおりが……ママの子どもだから。りゅーちゃんとママがなかよし、だったから、だとおもう」
涙は出なかったものの、詩織は鼻声だった。
「それは絶対に違う。間違いなくママはしーちゃんのことが大好きだよ。今日だってママはすごく心配していた。それに義理で引き取っただけの姪っ子の為に、手間暇かけてアイスを手作りなんてしないね。コンビニでだって簡単に買えるんだから」
俺は詩織の考えを強く否定した。
「それに、俺だってしーちゃんのことを仲間だと思ってるってゆうか。俺は一人っ子だから、妹が出来たみたいで嬉しいんだ。きっと笠井さんだってそうだよ。あんまり話したことはないけれど、尾方翠だって。そうじゃなきゃ、お土産なんて買ってこないでしょ。……俺達がしーちゃんのことを大切に思ってる気持ちを、曲解しちゃ駄目だ」
詩織は目を大きく見開き、一筋の涙が頬を伝った。そして今度は大きく頷いた。
「俺はまだWeirdosでは半人前だからさ。しーちゃんが仲良くしてくれると心強いんだけどな。笠井さんは怖いし、尾方翠からは睨まれてるし……」
「みすずちゃんも、スイちゃんも……やさしいよ……?」
「あぁ!! そうだ、笠井さんに謝れてないままだった……! 明日のシフトがっつり被るのに……はぁ……」
笠井さんを怒らせてから随分日にちが経ってしまったがシフトやタイミングが合わなかったために、ろくに話が出来ず依然として気まずいままだった。
「みすずちゃんと……ケンカしちゃったの?」
「あはは……。俺が悪いんだけどね……」
「なかなおりできるように……しおり、おうえんする……!」
詩織は小さく両手でガッツポーズをする。
「本当に? ありがとう! 笠井さんに無神経な発言しちゃったこと、ママにも相談できなかったんだ。しーちゃんに応援するって言ってもらえて、勇気が出たよ。……もしかしたらさ、俺みたいに誰かに背中を押して欲しいって思ってる人がいるかもね」
詩織は首を傾げた。
「人の秘密が見えちゃうって、しーちゃんにとっては辛いことも多いけれど……。誰かに手を差し伸べることもできる、優しいギフトになるかもってことだよ!」
そう言ってアイスを啜る。
「えぇ!! もうデロデロに溶けてる……!」
いつの間にかジュース状になっているアイスに驚いて声を上げる。
「ひかるちゃん、おかしいっ……。早くたべないからだよ……!」
そう言って詩織はくすくす笑った。初めて名前を呼ばれて、笑い声を聞いた。嬉しくて、嬉しくて、俺も大声で笑った。




