3-5.光と詩織
小学校に着くと、保護者用の深緑のスリッパでパカパカ音を立てながらまず職員室へ向かった。
担任の輪田先生に挨拶をすると、ママから事情を聞いていたようで保健室まで案内してくれた。ちなみに彼の特技は“ラジコン”で、花の状態からあまり特技を活かせていないようだった。しかし、恐らくグリス等の影響で爪が黒くなっており、相当熱中しているのだと安易に想像が出来た。
そこから保健室の川田先生に挨拶。父兄になったようで少し緊張する。彼女の特技は“マンガを描く”だった。文字の下には大きな花が咲いていた。どんなマンガを描いているのだろうか。
「加納さん、お迎えに来てくれたわよ」
そんな川田先生の声で目を覚ました詩織は、寝ぼけ眼で俺を見るとむくりと上半身を起こした。
「しーちゃん、迎えにきたよ」
そして俺を見るなり詩織の目はあっという間に潤んだ。
「ゔっ…、うあぁぁん!」
大粒の涙が次から次へと溢れてきて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら詩織は泣いた。こんな大きな声を上げている詩織を見るのは初めてだった。
「ママ、あぁいや、龍之助さんはすぐお迎えに来れなくてっ! 俺が来たからびっくりしちゃったかな!?」
俺がどうしたら良いのかわからずあたふたと焦っていると、
「多分、安心したんだと思いますよ」
と川田先生がこっそり耳打ちしてくれた。
ストッパーが外れてしまったかのように号泣する詩織を抱きしめて、頭を撫でた。
「大丈夫、大丈夫」
それ以外に何て声を掛けたら良いのかわからなかったけど、詩織の気持ちが少しでも軽くなったらいい。そう思った。
どのくらいそうしていただろうか。詩織の目は何度も擦ったせいで赤く、腫れぼったくなっていた。
すっかり泣き疲れた詩織は、
「……ごめん……な……さい」
小さな声でそう呟くと俯いてしまう。右手でそんな詩織の手を握り、左手でランドセルを持った。『めがねが大切』と書いてあるホワイトボードはインクが少し掠れてしまっているものの、いつものように詩織の首から下がっている。
俺と詩織は保健室を後にした。もう次の授業が始まっていたらしく校内は静かで、校舎の外に出ると体育をする子供達の元気な声と笛の音が聞こえてきて懐かしくなった。
校門に向かう途中、俺に手を引かれて歩く詩織を校庭から体操着姿の女の子が目線で追いかけていた。その心配そうな表情が気になったが、教師が鳴らした笛の音で走っていく。
そんな風景も、詩織の目には映っていなかった。




