3-2.詩織の日常
「ちょっと、加納さん!? 大丈夫!?」
川田先生が詩織に駆け寄り、背中をゆっくりと擦すりながら声を掛ける。
「加納さん、落ち着いて。少し息を止めて。ゆっくり呼吸をするのよ。大丈夫、大丈夫よ」
呆気にとられていたクラスメイトの一人が、その様子を見ているうちに堰を切ったように号泣する。
「ゔぅっ……うわあぁぁあん!」
一人が声を上げると、一気に火が付いたように他のクラスメイト達も大声を上げて泣き出した。
阿鼻地獄となった保健室に、騒ぎを聞きつけた担任の輪田先生がやってくる。
「えぇ! お前達、一体どうしたんだ!? 何があった!?」
クラスメイト達は輪田先生に駆け寄ると、泣きながらも各々まくしたてる。
「わたひたちッ……加納さんがきょうしつに来ないからぁあ!!」
「うわあぁん! しんじゃゔぅ!!」
「ちがうもおぉん!! おれたちわるくないもぉおん!!」
「うぇぇん……! 加納さんのためにきたんだもん!!」
「なっ……もしっ……してな……のにぃい!」
輪田先生は嗚咽が交じりほとんど聞き取れない話を聞きながら川田先生の方をちらりと見た。川田先生が詩織の背中を擦りながら、
「輪田先生、その子達をお願いします! みんな遊びに来てくれたんですけど、加納さんが驚いて過呼吸になっちゃって……」
というと、輪田先生は事情を察したようだった。そして泣いている子供達の肩を抱いて保健室を出ていった。
保健室を出ても、子供達はまだしゃくり上げている。輪田先生はしゃがみ込んで一人ひとりに目線を合わせた。
結果はどうあれ、この子達は善意だったのだ。
入学式以来、一向に姿を見せない一人のクラスメイトが保健室登校をしているとの噂でも聞いたのだろう。失敗に終わったとしても、子供達なりに彼女を思った行動の形だったのだ。
「みんなが加納が早く教室に来れるようにって行動してくれた気持ち、先生はすごく嬉しいし誇りに思うよ。ありがとう。だけどね、加納は今、自分と戦ってるところなんだ。みんなでゆっくり待っててあげようね。加納が教室に来たとき、今日みたいに優しくしてあげて欲しい。できるかな?」
子供達が頷くと、輪田先生はにっこりと笑って
「それじゃあ教室に戻ろう! 次の時間は算数だぞ〜っ」
と背中を軽く叩く。
五人は担任の先生の笑顔を見て安心したのか、パタパタと元気に廊下を駆けていった




