3-2.詩織の日常
夏休みまで後、四日。
宿題の作文のことが気がかりではあるが、後数日で長い夏休みに入るということが詩織の支えとなっていた。
いつも通り気配を消して時間がただ過ぎることを待つばかりの休み時間。今日も保健室は賑わっていて、川田先生と児童が談笑している声が聞こえる。
あと少しで休み時間も終わる、と思ったその時だった。
普段なら休み時間には決して開くことのない、詩織を外の世界から守っている仕切りが突如勢いよく開けられた。砦が崩されたことに驚く詩織の目の前には、同じ年代くらいの五人の男女が興味津々な様子でそこに立っていた。
「加納さん、だよね? わたし、加納さんと同じ一年一組の間鍋 香凜ってゆうの」
「おれは、おれは貴大! 杉原 貴大!」
「ぼくは向居 颯」
「みーちゃんは仁堀 美々子!」
「うちはねぇ、大ヶ原 雫だよぉ!」
勝手に仕切りを開けて自己紹介を始めた子供達に驚いた川田先生は、
「ちょっ、ちょっとあなた達!! 勝手に入っちゃ駄目よ!」
と制するも、元気いっぱい、ヤル気に満ち溢れている子供達は止まらない。言うことを聞くはずもなく口々に思い思いの言葉を容赦なく発していく。
「なんでクラスにこないの? みんなこわくないよ! 早くこないと、もっと来にくくなっちゃうんだよ」
「ほけんしつでズルしていけないんだ! 先生にズルしてるって言ってやろ!」
「加納さん、びょう気なの? どこかいたいの?」
突然起きた出来事に、詩織はただただ呆然としていた。
「こわいなら、わたしがいっしょにいてあげるよ! だからおいでよ!」
『いもうと、かわいくない』
「ムシしてないで、なんか言えよ!」
『おねしょした』
「どこかいたいの?」
『パパの時計、こわしてかくした』
「いつもほけんしつで何をしてるの?」
『△△ちゃんのけしゴムとった』
「何できょうしつこないの?」
『テストのけっかをママに見せてない』
クラスメイトから口早に責め立てられ、目に飛び込んでくる彼等、彼女等の秘密、秘密、秘密、秘密……。
詩織の頭はパニック状態だ。見たくない、見ちゃいけない、見えてしまった。このままだとまた嫌われてしまう。嫌われるのは怖い、寂しい、辛い。自分の秘密も明かさなければ。
「し、しおりは……ヒッ……ほんとは……ヒッ」
詩織は体に違和感を覚えた。息が詰まるというか、空気が足りない。上手く呼吸ができない。
――あれ? いき、すってるのにくるしい……なにこれ
そのまま詩織は椅子から転げ落ち、床に倒れ込んだ。冷や汗が出てきて目の前の景色がぐらぐら揺れる。
詩織を取り囲んでいたクラスメイトは、ゼェゼェと荒い呼吸をし始める彼女の異変に驚いて一気に静まり返った。




